SHIMADANOMEシマダノメ

シマダノメ Season7
第3回 深掘りインタビュー
喜山康平 選手

『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season7の第3回目は37歳、チーム最年長の喜山康平選手の登場です。増本浩平監督が全幅の信頼を置く加入2年目のボランチは攻守の要所で効果的なプレーを披露。チームを引っ張るリーダーとして心がける姿勢、考え方、そこにつながるサッカー観について深掘りします。また『初体験』への熱い思いも!(取材日/4月8日)。

―昨年のギラヴァンツ北九州への加入はトライアウトを経てのものでしたね。

若い時はトライアウトを受けなければならなくなった時はサッカーを辞める時だ、と考えていました。いざ、松本山雅FCを契約満了になると分かった時に代理人とも話して、トライアウトを受けた方が良いんじゃないか、とアドバイスされましたし、プロとしてプレーする可能性を少しでも上げるためにも受けようと思いました。トライアウトを受けたらよかったと後悔はしたくない気持ちもありました。ボランチは選手が多いと思いましたし、センターバックの方が目立てると思い、トライアウトへの参加はセンターバックとして申請しました。急造のチームでしたが、自分が最年長だったので、みんなでミーティングをして戦い方を整理してチームをまとめることはできました。

―トライアウトへの参加は、まだサッカーをやりたい、やり残したことがある、からですね。

そうですね、松本では途中出場がメインで、秋を過ぎてからはメンバーにも入れない状況が続いたので、このまま終わるのは嫌だな、もう1回チャレンジしたいなと思いました。そこにへんなプライドはありませんでしたね。コンディション的には、準備はできていたのでトライアウトも良い状態で臨めました。楽しめたし、結果的にギラヴァンツ北九州から声を掛けてもらったので、自分の中ではとてもうれしい出来事でした。本当は新婚旅行で海外へ行こうとチケットも取っていましたが、トライアウトを受けるためにキャンセルしました。ギラヴァンツ北九州から声が掛からなくても、カテゴリーは問わずどこかのチームが興味を持ってくれれば話はしよう、というスタンスではいました。

―トライアウトのゲームは短いはず。

目立つのは相当に大変な気がします。でもキャラクター的にはアピールチャンスだとは思っていました。

―そうして手にしたチャンス。去年はどういう気持ちでシーズンに入ったのでしょうか。

まだサッカーをやれるチャンスをもらえたので、強化部、監督の気持ちに何とか応えたい。その前年度はすごく大変なシーズンだったと聞いていたので、何とか上を狙えるチームに、戦えるチームに、そのチャレンジを引っ張って行けるようにという気持ちで北九州に来ました。

―2024年シーズンは18試合出場1得点。

プレシーズンから本当に良いコンディションでプレーできていました。その前の3年間と比較しても久しぶりに動けるな、という感覚。このチームの筋トレ、トレーニングの持って行き方が自分には合っていて、良い状態で入ることができました。ただ、開幕前にケガをして、それを抱えながらずっとプレーする形になりました。結果的にケガしたところとは別の部位にも負担がかかってしまい、満足のいくコンディションでプレーできなくなりました。そういう中ですごく葛藤したし、満足の行くシーズンとはなりませんでした。

―去年はチームとして秋にすごく苦しみました。その時の思いは?

自分が試合に出ることができなくても何とか勝利に貢献したいという気持ちはありました。でもコンディションがなかなか整わない中で自分のことで精一杯なところもありました。試合に出てゲームコントロールをして勝点獲得につなげるような貢献はしたかったし、準備はしていたが、なかなか勝利に結びつけることができませんでした。

―今季開幕直後お話を聞いた時に「コンディションはかなり良い」という言葉を口にしていました。

オフシーズンにしっかり休んだあと、ケガの原因が分かってきたことで、オフシーズンの間に良いトレーニングができたことが大きかった。あとは、チームが始動したあとに、それまではあまりトレーナーに身体を触ってもらうことが少なかったのですが、今年は練習前に触ってもらい、フィジカルコーチにも身体をチェックしてもらってからグランドに出て行く。そのルーティンがいまはうまく行っている感じです。

―今季のここまでの働きについて。主に試合を締める役割を非常にうまく果たしています。

年齢に関係なくスタートから出たいという気持ちは常にあります。でも、ベンチから出て行く選手もスタメンで出る選手と同じくらいに重要だと思います。いまはベンチスタートが多い状況ですが、その時に与えられた役割をしっかりまっとうしてチームの勝利に貢献できるように意識してやっています。

―ゲームクローズで特に意識することは?

試合によって変わるし、自分もまだ正解が見えていなくて、勉強している段階です。でも、自分が途中から試合に出た時にチームが勝っている状況だと、相手は当たり前に攻めてくる。勝っているチームは終盤にかけて相手に攻められて終わる、というのは世界的に見ても当然のようにあるパターン。だから、自分が出て行った時に相手に攻め込まれるというのはよくあることで、もちろん、それに対して自分たちもしっかりと攻撃を仕掛けられれば良いですが、なかなかそうはいかない。

―そういう意識でピッチに入っているから慌てない、と?

最初からピッチに立っている選手は「やばい、攻められている、追いつかれたらどうしよう」という焦りは出てくると思います。でも、試合を締める役割を持って入る自分は「そういうことはある」という感覚で入っているので意外に冷静です。

―的確なゲームコントロールは経験とともに養われるものでしょうか。

いろいろな試合を経験したこともそうですし、あとは自分たち以外のサッカーの試合をよく見て勉強しているからですかね。僕は年齢が上なので「経験があるから」と言われますが、それでももっと勉強しなければいけないと日々思っています。去年もシーズンが終わって「まだまだだな」と感じましたし、「経験があるからうまくゲームコントロールできるはずだ」と思っている自分に気づいたというか。でも実際は、去年も良いゲームコントロールという点で貢献できない試合がありましたから。そもそも経験は「過去のモノ」。でも自分がプレーしているのは「いま」で、いまのサッカーは日々進化しているから、常にアップデートしないといけないんですよね。

―去年は副キャプテンを務めましたが、今季はその肩書が取れました。増本監督に聞くと「コウヘイは肩書がなくてもみんなに信頼されるだろうし、しっかりチームを引っ張っていける選手だから」との答えでした。副キャプテンという肩書がなくなったことで変化はありますか?

去年は副キャプテンでありながらケガで離脱している期間が長かった。結局、ピッチに立っていないと説得力がないというか、どうしても遠慮が生まれるというか。プレーしていないと言えないことも出てくるので、できるだけ多く、長くピッチに立たないと、と去年は思いました。ただ、いつもチームに貢献したいと考えているので、肩書がある、ないについては、僕にはあまり関係ないように思います。だから、去年から何か大きく変わったことはありません。

―練習後にクラブハウスでチームメイトとテーブルを囲んでランチを食べている喜山選手は、比較的静かな印象です。場を盛り上げようとするわけではないし、かといって会話に参加していないわけではない。にこやかに、みんなの話に耳を傾ける、そんな印象です。ピッチでも味方を鼓舞するような激しいコーチングをしているようには見えません。どういうリードの仕方が自分に合っていると思っていますか?

僕はみんなをよく観察します。その観察を生かして、必要な時に必要なアドバイスを送ることができればいいなと考えています。僕はみんなと多くしゃべることはできないけれども、どの選手ともまんべんなく話せるキャラクター。昔からそこは変わっていないように思います。観察して分かったそれぞれの選手のパーソナリティーに合わせて、また観察によって分かった選手やチームが置かれた状況に合わせて自分なりに考えた解決策や進むべき方向をみんなに伝えながら、みんなと一緒に勝利や目標に向かっていく。そういう引っ張り方が僕には合っていると思うんですよね。

―鋭い観察力は自分がうまくプレーすることにももちろん利用しているんだと思いますが、どちらからと言うと、選手個々の特徴や個性を生かすこと、また個性の集合体であるチームをより良くするために生かしているように思えますね。

いや、もちろん軸は自分にあります。自分が良いプレーをするため。でも、どの選手も面白い個性を持っているし、それをピッチで十分に表現できたら、良いチームになるし、良い結果も出ると思う。だから、それぞれの選手の個性をうまく引き出したいと思って声掛けもするし、そこで観察も生きてくると思います。

―個性を生かすことはチームづくりにおいて大事なことなのでしょうか?

そう思います。個性はみんな異なるから、それをピッチで表現することで特別なプレーとなるし、それを楽しみにその選手を応援するサポーターの方々もいるはず。ピッチに立つ11人がそれぞれの個性を発揮すれば、ほかのチームとは異なるサッカーになるだろうし、ほかとは違うからこそ面白さも生まれてくる。それってただ面白いだけではなく、強さにもつながると思います。

―過去のプレー実績を見て驚きました。東京ヴェルディからの期限付き移籍でファジアーノ岡山の一員としてプレーした2007年の中国リーグで17試合出場、27得点―27得点!!

FWでプレーしていました。あまり覚えてはいませんが、得点パターンは抜け出し、FK、PK、ヘディングは少し。いろいろなパターンで取ったと思います。小学校の時から基本はサイドハーフかFW。でもFWがメイン。高校3年生の時にFWで出て後半の最後はボランチで出るようになりました。足は速くなかったが、遅くもなかった。左足シュートには自信がありましたよ。

―中国リーグ、JFL、J1、J2,J3と各カテゴリーでプレーしてきて、サッカーに違いを感じますか?

カテゴリーが上がれば、小さなミスが失点、得点に直結するし、よりペナルティーエリア内の精度や強さ、質というところはカテゴリーが上がって行けばいくほど、そのレベルも上がる。と感じます。FWでもGKでもそう。日本がそうなので、恐らく世界でもそうなんだと思います。ゴール前の守備、攻撃の質がカテゴリーと一緒に上がっていくのでは。

―将来的には指導者の道に進むことを考えていますか?

中学生のころから実は指導者に興味がありました。だからそのつもりで、ライセンスも取っていますし、選手をやめたらやろうと考えています。

―中学生のころに指導者に興味がわいた理由は?

小、中、高校と自分がプレーしていた東京ヴェルディの指導者の方々に恵まれたことが一つ。学生の時にケガが多くてプレーできないことがたびたびある中で、それでも自分にしっかり向き合ってくれる指導者の方ばかりだった。その時に、まずはサッカー選手になりたいという気持ちがありましたが、指導者にも興味がわいたんですよね。

―イングランド・プレミアリーグのアーセナルに詳しいとお聞きしました。

それこそ中学の時の監督がアーセナルのことが好きで、チームのミーティングでもアーセナルの試合映像がよく使われていて、すごく面白いサッカーをしていたんですよね。ちょうど、ティエリ・アンリとか、パトリック・ヴィエラ(共に当時のフランス代表)らがいて、リーグ戦を無敗優勝する強い時代のアーセナル。ずっと好きで、自分がプロになって海外に行けるようになってからは、オフシーズンには結構な頻度で現地で試合を見るようにもなりました。アーセナルの試合だけではなく、イタリア、スペイン、ドイツでほかのクラブの試合も見ました。いまは配信でアーセナルの全試合を見る、“ただのサポーター”になりました(笑)。

―国によってスタジアムの雰囲気も違うんでしょうね。

それぞれ独特な雰囲気があって面白くて、でもどこの国のものが良いのかを比べるのはおかしく感じるほど、サッカーも魅力的でした。ただ、観客の瞬間の反応に関して言えば、イングランドが一番速いですね。何気ないプレーに自然と拍手が送られるあの雰囲気は素晴らしい。選手からしたら、このプレーもしっかり見て称えてくれるんだと思えるからやりがいがあると思います。プロ選手なら誰しも「ここでプレーしたい」と思うような素晴らしい雰囲気でしたね。

―中学生のころと今で海外サッカーを見る視点は変わりましたか?

今も中学生の時と同じように個々の細かい選手の技術にフォーカスすることはありますが、より全体を見るようにはなったんじゃないかなと思います。試合の流れとか、こういうプレーが出れば逆転が可能になるのか、とか。何かのきっかけで展開が変わるものですが、そのきっかけを探す、また、なぜこのチームは得点が少ないのか、今年序盤は調子が良かったのにここに来て低迷しているのはなぜなのか、とか。

―いまのアーセナルでおすすめの選手は誰ですか?

えっ~と、さっきも言ったように今は完全なるサポーターなのでチームみんなを応援しているので誰か一人を挙げるのは難しい(笑)。

―では質問を変えて。アーセナル歴代の中で好きな選手は?

サンティ・カソルラという選手ですね。スペイン代表でもプレーした中盤の選手で、いま40歳くらい(1984年12月13日生まれ)になると思いますが、スペインの地元クラブ(レアル・オビエド)でプレーしているようです。

―なぜ、カソルラ選手が好きなのでしょうか。

170センチもない身長なのにとても技術が高くて、そのテクニックはいまのアーセナルでも十分に通用するくらいのもので、プレミアの大男たちに技術で対抗しているのが見ていて面白かったんです。

―今季はボランチでのプレーとなっていますが、非常に定位置争いが激しいポジションです。どういうところをポジション奪取へのアピール材料にしたいと思いますか?

まず競争が激しいことはチームにとって大きなプラス材料だと考えています。長いシーズン、ケガやそのほかの理由で離脱者が出るものなので、厳しい競争によって各選手のレベルアップが図られていれば、その穴を埋められるし、それによってチームは安定した戦いができる。自分としては攻守をうまく回すこと。特に攻撃面で違いを出したい。決定的なパスも出したいし、前の選手の個性をうまく引き出せるようなビルドアップの構築にも関与したいし。そういうところで、自分を見せたい。守備ももちろん大事にしていますが、攻撃のところが楽しくてサッカーをしているのは、子どものころから変わりません。

―岡山在籍時にJFLからJ2、松本在籍時にJ2からJ1への昇格を経験しています。昇格を達成する時には共通の雰囲気があるのでしょうか?

チームだけではなくクラブ、サポーター、メディア、そして街を含んでの気運が高まること。そういう時に強さを発揮して昇格につながったように思います。そこが共通点ですかね。選手の頑張りはもちろんですが、サポーターの方々がスタジアムにたくさん来てくだされば、ホームで抜群の強さを誇るチームになる。そういう全体のパワーはやはり大事な要素になると思います。『みんなの頑張り』が大事。それは間違いないでしょうね。

―そういう意味で、今季のギラヴァンツ北九州の『頑張り』をどのように見ていますか?

優勝、J2昇格という目標に向けてトライしていますが、正直、まだここから、という感じですね。ここからシーズンが深まるにつれていろいろなことが起こると思いますから。でも、難しい状況になった時に個人としてチームとして、またクラブとしても何ができるかが真の力だと思います。いまはそういう真の力となるべき要素を積み上げている段階だと思うので、みんなで協力し合ってレベルアップしていきたい。

―昨季の7位という結果から今季は優勝を目標としてスタートしたわけですが、その高い目標を喜山選手はどのように受け止めたのでしょうか?

僕はそういう目標が提示される前から優勝を目標に戦いたいと思っていました。僕はプロになってから一度も優勝の経験がありません。小、中、高では周りにも恵まれてすべてのカテゴリーで優勝を経験した。だからなのか『プロでも優勝』への思いが強いのかもしれません。特に今年は「優勝する」という気持ちだけでやっています。だから監督が、そしてクラブが今季の目標に「優勝」を挙げてくれたことは本当にうれしいことでした。

―長くプレーしていてもまだ『初体験』が残っているんですね。

まだまだ未経験なことはあるはずですが、今年は優勝だけにフォーカスしているし、それを達成するために自分に何ができるか、何が足りないかを考える日々になっています。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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