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シマダノメ Season2
第10回 深掘りインタビュー
小林伸二 監督(後編)

シマダノメ Season2 第10回 深掘りインタビュー 小林伸二 監督(後編)

『シマダノメ 深掘りインタビュー Season2』の最終回は20年末にお届けした小林伸二監督の後編です。2020年に選手とチームが見せた進化について2020シーズンを振り返りながら深掘り、また2021シーズンについては確定要素が少ない中で“浅掘り”しました。(取材日/12月24日)。

―2019年J3で見せた攻撃と20シーズン、J2で見せた攻撃の違いはハイプレッシャーからのショートカウンター中心の昨季の攻撃に、ボール保持しながらのポゼッション・スタイルが加わったことだと思います。

そこにあるのは、『ボールを保持することでハイプレッシャーを維持する』という考え方です。それを実現するためには二つの方向からのアプローチが必要ですね。ボールが持てるうまい選手がハイプレスに連動できるように体力をつける。ボールを奪う能力がある人が、ボールを保持する能力を身につける。その両方の考え方で練習に取り組んでいきましたが、結果的には徐々に前者のタイプの選手が試合出場のチャンスをつかんでいったように思います。

―2020年、ポゼッションに対する自信が付き始めたときに、ゴールを奪うことではなく、ボールを保持することが目的になってしまうという、よくある現象は起こらなかったのでしょうか?

それはありませんでした。という第一の理由は、ウチの選手は裏のスペースに走ってボールを受けるのが得意な選手が多かったからです。後ろに引いてきてボールを受けたがる選手が前線に少ない。もちろん、ボールがうまく回せないときは引いてきてボールを受けてほしいという要求はしますが、でも「まず狙うのは裏だよ」ということは徹底していましたから。裏を狙うのも、サイドに流れてではなく、真ん中の裏が第一選択。そういう動きをすることで、相手は当然真ん中を締めてきますから、そうなるとサイドが空くから、今度はサイドバックがサイドの裏を狙う。サイドバックが裏に走ると誰がカバーするかというとボランチがそうすることが多いから、今度はバイタル・エリアが空いてきて、そこも狙える。そういうのをセットにして意識していれば、あとはパスの出し手がどこを使うかの問題になってくる。だから、ボールを回すことが目的になる、という状況になることはほとんどなかったと思います。

―先ほどの話に戻りますが、ボールを保持する理由がゴールを奪うため、それから、そこにつながるハイプレッシャーを維持するため、という目的があることを選手が理解しているから、ボール保持そのものが目的になることもない、と。

「ボールを回しているときにタイミングをうかがって裏を取るんだよ」と言い続けたし、選手もそれを十分に理解しています。それからボールを回しているときに失ったらまたハイプレッシャーをかけなくちゃいけなくなって、その苦しさを理解した上で、ボールを回す意味を選手はしっかり分かっていますから。『得点を取るためにボールを保持する』という考え方はよく耳にされると思いますが、われわれはそうではない。ハイプレッシャーを掛けるため、あるいはそれを含めてわれわれが狙いとする、テンポのよいサッカーをするためなのです。

―以前、髙橋大悟選手に守備について聞いたとき「守るときには僕1人で相手2人を見るように言われている」と話していました。

それはハイプレッシャーでボールを前線で取れないとき、中間層でボールを奪うための注意ポイントですね。ボールホルダーを見ながら、他の相手2人の間にポジションを取りながら、ボールの行方を誘導する。誘導した先で、例えばボランチやサイドバックがボールに強くいって奪い切る、という形ですね。ダイゴ(髙橋大悟選手)は体が小さいからガツンといってボールを奪い取る守備がそんなに得意ではないけど、コースを限定しておいて「あとは頼んだよ」という感覚の守備が非常にうまい。ウチのスタイルにおけるサイドの選手はそういう守備でいいんです。ヘタにボールホルダーにガッと寄せて簡単にかわされて逆サイドにボールを振られるとウチとしては苦しいので。ナオキ(椿直起選手)はそういう意味では一生懸命過ぎて簡単にかわされることが多かった(笑)。ダイゴと同じくそういう守備がうまいのがガッキー(新垣貴之選手)。一番うまい。ただ、連続してできない。連続というのは1試合の中でもそうだけど、次の試合でも、という意味。身体的なリカバリー能力がまだ十分じゃない。そういうのは食事から変えて行かないとね。

―食事から見直す?

少し前に、普通のものよりさらに詳しく分析してもらえる血液検査を選手に受けさせたら、隠れ貧血が多かった。鉄分が足りていない。あとは肉系の食事で摂取できる栄養素は十分なんだけど、DHAとか魚系で摂取すべき栄養素が不足しているとか、そういうことも分かったので、来季に向けたキャンプとか遠征先のホテルでの食事から変えて行くつもりです。そういうのを選手自身が意識するようになって、アスリートとしての肉体になっていくと、それぞれの選手が持っている武器、特徴をさらに効果的に発揮できるようになるだろうし、リカバリー能力も高まってパフォーマンスも安定していくんじゃないかなと思っています。

―やるべきことがどんどん見つかっていく、感じですね。

『教えを散らす』というのでしょうか。何かしらの失敗がある度に解決策を探り、選手にアドバイスをしていく、やり続けて行くことが、特に若いチームだと必要だと思うようになりました。監督だけを務めているのであれば、失敗したら厳しい言葉で奮起させればいいんでしょうけど、スポーツダイレクターという将来的な目でクラブ運営も考えて行く立場も兼務しているので、失敗しながら学んでいけばいい、というスタンスも必要なんだ、と私も頭の中で整理するようになったと思います。

―2020シーズン、42試合の中で選手に「よくやった」とほめてあげたい試合は?

第40節の磐田戦ですね。第38節の徳島戦と第39節の山口戦の両方を1-4で落とした。そのあとの磐田戦でしょ。磐田はシーズン前半戦の中で一番強いなと感じたチームでした。そのチームにあの遠藤(保仁)選手が加わっているわけですから、そりゃもう強敵ですよ。ハイプレッシャーは当然掛けに行けれども、今季1回目の対戦でうまくかわされる場面もあったので、かわされたときの対応も考えなくちゃいけなかった。そのころの磐田のリズムは遠藤のリズムそのものだった。だからアマノ(天野賢一ヘットコーチ)が、「だったら遠藤を消しに行きましょうよ」という意見を言ってくれた。「じゃあ、やってみるか」ということになったんです。ソウヤ(藤原奏哉選手)を右サイドバックから中盤に戻して主に遠藤を見させて、ほかの選手の立ち位置も少し意識させながら短い準備期間で臨んだんですけど、そこで選手たちがたくましくやってくれた。新たなトライでしっかりと結果を出してくれたことが一番手ごたえを感じましたし、うれしかった。あとは、第19節の新潟戦。あの打ち合いのゲームで、自分たちのスタイルを出し切ってモノにしたことは素晴らしいことでしたね。

―監督自身にとっての快心のゲームは?

第8節の徳島ですね。岩尾憲選手をいつものボランチではなくて最終ラインに入れる変化を見せてきたでしょ。徳島に自分たちのやり方を変えさせた、ということがまずうれしかった。岩尾選手を後ろに下げたということは、ウチのハイプレッシャーを回避してボールを回したかったのでしょうね。でもね、ウチとしたら岩尾選手が中盤にいたほうが怖かった。まあ、相手がそういう出方をしたので逆にウチはハイプレッシャーがかけやすくなって、自分たちのリズムで試合を進めることができました。レレ(ディサロ燦シルヴァーノ選手)が早くに先制点を取ってナオキが前半のうちに2点目。展開としても良かった。でも2回目の対戦(第38節)も徳島が選手の配置を変えてきたんだけど、今度はそれがわれわれにとって裏目に出て、きっちりとやられました(笑)。

―今年「伸びたなー」と思う選手は?

レレ。あとはダイゴ。それからコウタ(村松航太選手)、ケンタ(福森健太選手)あたりですかね。レレは数字にも出ている(18ゴールでJ2リーグ得点ランク2位)からみなさん分かると思いますね。ダイゴはたくましくなりましたね。うまいんだけど、チームのことを一番考えている選手かな。コウタは1年目の選手だけど、試合に出続けることで伸びましたね。ケンタは19年があっての20年だとは思うんですけど、ライバルがいても自分を見失わず、ちゃんと自己分析して高めようという意識で日々を過ごせる選手で、それが好パフォーマンスにつながったと思います。

―磐田戦に続いて、最終節の千葉戦でも新たなトライ、3バックを組んで戦いました。

一つの理由はハイプレッシャーをかければ恐らく相手が長いボールを蹴ってくるだろうということで、最終ラインに高さがある選手を置いてみようということ。そしてヨシキ(佐藤喜生選手)が伸びてきていたので左センターバックで入れてみよう、と。あとは、相手は2トップだろうからコウタ、ジン(生駒仁選手)、ヨシキの3バックとボランチのコウケン(加藤弘堅選手)の4人でボールを回せるからチームとしては高い位置を取れるはずだ、という考えが2つ目の理由です。先制したところまでは良かったのですが、結果的にはうまく行かずに負けたんですけど。でも、選手も私も良い勉強になりました。チャレンジしないと分からないこともありますから。

―一番悔しかったゲームは?

後半戦の徳島戦と福岡戦ですね。徳島戦は、徳島が先制するとリトリートする傾向にあったので、実際に先制されても慌てることはなくて、逆にここから行けるぞ、と思っていたんですけど。後半序盤の2失点目が痛かったですね。クニ(鈴木国友選手)のゴールで1-2とした後もリズムは良かったのですが、そこで取れなかったことも痛かった。やはり徳島は2点目を取った渡井(理己)選手のように、個の能力で点を取るチームで、そういうチームに対してわれわれが目指してきた組織の力で上回ることができなかったことが悔しかったなぁ。

―福岡戦については?

10月の初戦でしたね。ダイゴが累積警告で出場停止ではありましたが、守備的に来るだろうと読んでいて実際にそうしてきた福岡を攻撃力で押し込めなかったことが悔しかった。結局、あの一戦で負けたことで少し落ち込んで、10月は1回も勝てませんでした。

―第40節・磐田戦と第41節・山形戦で2連勝した後、最終節の千葉戦を前に4位浮上へ意気込みを見せていたのは、やはりクラブ最高順位を取っておきたかったからでしょうか?

いいえ、5位が最高順位だと知らなかった(笑)。千葉戦を終えて「14年の成績と並びました」と言われて「エッ、ハシラ(柱谷幸一元監督)も5位だったの?」って。

―では、「4位を取りに行こうぜ」と選手に話した理由は?

まず、徳島、福岡、長崎という上位3つは予算が大きいビッグクラブなので、そこに食いついていきたい、ということ。それとその3チームも含めて4位の甲府も外国籍選手がいるチームで、その中でわれわれは日本人選手だけでやっているというところでのこだわりもありました。

―第41節の山形戦後にピッチ上で行なわれたセレモニーで小林監督は「来季はもっとたくましいチームにします」とお話されました。その「たくましさ」とは?

負けた時のメンタル面でのリカバリーや、首位に立ったときのプレッシャーをちゃんと受け止めながら前に進める、といった精神的なたくましさのことです。良い時も悪い時も、また順位にかかわらず自分たちがやろうとしていることをちゃんと表現できるたくましさがほしい、ということですね。

―シーズン終盤、小林監督は「主軸としてプレーした選手のほとんどに他チームからのオファーが来ている」とお話されていましたが?

本当のことですよ。

―もし多くの選手が去ることになっても、それは北九州のサッカーが評価されたということでもありますから、サポーターの方々は寂しいとは思うのですが、そこは誇りに思って欲しいですよね。

そうですね。実のところ、これだけのオファーが来たことは僕も過去に経験したことがありません。だから驚いて知り合いの関係者に「こういうことってあるの?」って聞いたら、「シンジさん、みんな北九州のサッカーを見ていますよ。だってあんなに面白いサッカーするんだから、選手も良く見えてみんな欲しがりますよ」って言うんですよね。

―ということは、2021シーズンのメンバーが大幅に変わる可能性もあるということになりますが、それはやはりチームにとってマイナスになるのでは?

2年間チームづくりを進めてきて、3年目となる2021シーズンにさらなる飛躍を見せるためには、戦力面の強化と戦い方の変化と進化は不可欠です。キーマンになる選手を補強したいとは思いますが、そう簡単に事が運ばないかもしれないという不安はあります。でも、2019年に大幅なメンバーの入れ替えを行なってこの2年間で成果を出したという事実もあって、そこで選手も、われわれコーチングスタッフにも身に付けたモノが確実にあるので「大丈夫だ」と思える自信もあります。

―大幅に変わることで逆に燃えるというか、ワクワクする気持ちが出てくることも?

新型コロナウイルスの感染がどう収束していくのかまだ見えていませんが、今のところ2021シーズンは通常の日程でリーグ戦が進行する予定。そうなると2020年と違って試合間隔が空き、練習やトレーニングマッチの時間も十分に取れるので、逆にチームづくりのスピードが上がるはずです。たとえ、選手が大幅に入れ替ってもチームに馴染む時間は2020年よりも早くなるし、チームとしてもより質の高いものを求めていけるはずですから、そこは非常に楽しみです。この2シーズンよりもさらに上を目指すので当然、補強する選手のグレードは高いものにする必要があるわけで、まあ来てくれるかどうかは別にして、そういう選手にオファーをかけていくわけですから、そういう選手をどうやって今のスタイルに合わせていくか、彼らがどんなパワーをチームにもたらしてくれるかを考えると、それはワクワクしますよね。

―小林監督にとって3年目の指揮となる2021シーズンでポイントになる選手は?

ボランチは一つカギを握るポジションになると思います。

―2021年も攻撃的なスタイル、「つながり」を大事にして組織的に戦うというスタイルを継続するつもりでしょうか?

変えません。それをギラヴァンツ北九州のスタイルにします、ブランド力にします。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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小林伸二監督の一口感想

「とにかく具が大きい!どの具も食べ応え十分で大満足です!」

小林伸二監督の一口感想

(シマダノメ Season2は今回で最終回です。
Season3は果たしてあるのか、あるとすればいつ始まるのか、誰が登場するのか。お楽しみに!)

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