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シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』Season.2 No.002

シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』Season.2 No.002

トム・クルーズ主演でおなじみのスパイアクション映画『ミッション・インポッシブル』のシリーズ第7弾の撮影が新型コロナウイルス感染拡大の影響でストップしているらしい。世界規模で猛威を振るうウイルス禍が終息に向かい、一日でも早く『日常』が戻ることを祈るばかりだ。

さて、皆さんご存知だとは思うが、念のために『ミッション・インポッシブル』について説明すると、このシリーズ映画は、秘密諜報組織『IMF(Impossible Mission Force=不可能作戦部隊)』に所属する、トム・クルーズ演じる「イーサン・ハント」を主人公とするもので、イーサン自身の秀でた諜報能力、格闘能力はもちろん、イーサン以外のチームメンバーのサポートもあっての、計算されつくした高度な作戦、ハイテクを駆使した変装なども用いながら最高レベルの警戒にあるエリアへの潜入などを通じて不可能と思われるようなミッションを遂行していくというストーリーとなっている。

「それがどうした?」。 ハイ、その反応はごもっともなこと。でも、言わせていただきたい。2月23日のアビスパ福岡との開幕戦、終盤のミクスタのピッチに何と「イーサン・ハント」の影を見たのである! そう、今季、セレッソ大阪から完全移籍で加入した斧澤隼輝選手のことだ。

74分にピッチに入った斧澤選手は持ち味である個人でのドリブルの仕掛け、味方選手とのショートパス交換という見事なコンビネーションプレーの連続で、1点のリードを守ろうとして自陣にセットした福岡の守備網をスルリスルリと抜けてチャンスをつくり出していったのだった。

「負けている状況で入ったのでとにかく前に出て行って自分の持ち味を出してやろうと、かなり気合が入っていたんですよね」と福岡戦を振り返った斧澤選手が福岡戦で位置したのは左サイドバックだった。実はこのポジションでプレーしたのは、ほとんど初めてのこと。「左サイドハーフでプレーしたことは過去にもありましたが、左サイドバックはありません。去年のJ3リーグを戦うセレッソU-23でケガ人が多かった時に右サイドバックで3試合ほどプレーはしていたんですけどね」と語る斧澤選手だが、福岡戦でのプレーは、『初』による戸惑いなど微塵も感じさせず、むしろイキイキとしてプレーしていたように映った。

アタッカーである斧澤選手の左サイドバック起用も昨季の小林伸二監督の采配を振り返れば奇策などではない。昨季、サイドアタッカーでプレーしていた茂平選手(今季からブラウブリッツ秋田所属)を右サイドバックに入れて彼の持ち味である攻撃力、推進力を生かそうとしたのは記憶に新しいだろう。最終ラインに位置するサイドバックには守備力も求めるが、「待ち構えて守るスタイルを取るつもりはない。常にアグレッシブに、攻撃的に戦う」という小林監督が昨季から掲げるチームスタイルを考えてもサイドバックには守備能力はもちろんだが攻撃的能力を重視するのが小林流。だから斧澤選手のサイドバック起用は不思議でも何でもない、当然あり得る選択肢の一つ、ということになる。

にしても、ほとんど経験のない左サイドでの起用にはやはり思い切りが必要だったのではないかと指揮官に話を振ってみるが「右も左も関係ないでしょ?」と、あっけらかん。選手への信頼感の裏返しとも言えるこのクールな考え方、イーサン・ハントにIMF本部が指令を告げる際の「君あるいは君の仲間が捕まり殺されても、当局は一切感知しないものとする」の名文句につながるものがある。

小林監督の意図を十分に理解している斧澤選手自身の、慣れない左サイドでのプレーやサイドバックに必要な守備面での役割の捉え方も実にポジティブなものだ。「右利きの僕が左サイドでプレーすることで生まれる利点もあるんです。右から来たボールを右足で隣のボランチに預けてそのまま前に走って再びボールを受けるプレーはやりやすいですし、チームの攻撃のスイッチとなるフォワードへの斜めのパスもピッチの内側に体を向けてプレーする右利きの方がスムーズに入れられますから。守備に関しては確かに得意ではありませんが、前に上がって行ってもすぐに後ろに戻れるスピードや持久力には自信がありますし、体が小さい分小回りが利くので、1対1の守備も粘り強くできます。あとは周りの選手も助けてくれますから、守備面で不安になる、ということはまったくありません」。

斧澤選手が今後どのポジションを主戦場とするのかは分からないが、福岡戦で初の左サイドバックを経験したことで、斧澤選手のプレー可能ポジションは右サイドハーフ、左サイドハーフ、右サイドバック、左サイドバックに加え、狭いスペースで正確にボールを扱える高い技術と、前を向くターンの巧さ、そこからのドリブルの仕掛け、パスセンスを持っていることを考えると、トップ下でのプレーの可能性も出てくる。つまり、斧澤選手は、変装が得意なイーサン・ハントのように、さまざまな「顔」を持つ、敵にとっては非常にやっかいな存在となり得るということ。これはチームにとっても大きな武器となるはずだ。

斧澤選手と少しの時間話してみて頼もしいと感じたのはその性格によるものだった。「福岡戦もそうでしたが、相手が守備を固めた時ほど、燃えるんです。ドリブルで仕掛けて自分一人で抜き切る自信もあるし、ボールをはたいてスピードに乗って走った状態でまた味方からのパスを受けるという、これも僕の持ち味だと思っているのですが、そういうプレーで守備ブロックを突破していく、それは簡単なことではないのですが、いろいろなアイディアを出しながらチャレンジを繰り返すのが、本当に楽しいんです」との言葉に、困難であればあるほどやりがいを感じる、強靭なメンタルの持ち主であると確信したのだ。

もちろん、「斧澤選手がギラヴァンツ北九州におけるイーサン・ハントだった」と言えるのは、これからの働き次第だ。厳重な警戒態勢が敷かれた敵地に勇気をもって潜入し、個人の能力で、あるいは味方との抜群の連係でゴール奪取というミッションを何度も完遂することで「斧澤=イーサン・ハント」の認識が成立するのだ。もちろん、ギラヴァンツ北九州には斧澤選手以外にもイーサン・ハントになり得る選手がいるし、あるいは、「ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス演じる殺し屋)」や「ジャック・リーチャー(トム・クルーズ演じる元米国陸軍兵士の流れ者)」のような、一匹狼として一人でミッションを成し遂げる選手が出現するかもしれない。そのあたりが一日も早い再開が待たれる今季リーグ戦での楽しみの一つになれば、と思っている。

文:島田 徹

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