SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season5
第6回 深掘りインタビュー
池髙暢希 選手
『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season5の第6回はギラヴァンツ北九州加入2年目の池髙暢希選手の登場です。6月に先発の座をつかむまでの取り組みやその姿勢、チームへの貢献方法などを深掘り、池髙選手の今季ここまでの歩みと残りのシーズンに向けた決意を聞いてきました。(取材日/8月29日)。
―池髙選手にとっての今季ここまでのシーズンはどのようなものだったのでしょうか。
4月下旬の第8節まで試合に出ることができませんでした。僕は浦和レッズでプロになり、1年目(2019年)は1試合も出場することができませんでしたが、2020年から期限付き移籍でカターレ富山に在籍してJ3で試合出場するようになり(21試合出場)、2021年も福島ユナイテッドFCに移籍して、そこでも起用してもらい(24試合出場1得点)、昨年から完全移籍でギラヴァンツ北九州の一員となって、また出場の機会をもらいました(27試合出場、2得点)。だから今年のように試合に出ることができない期間が長く続いたのは久しぶりのこと。それは決して良いことではありませんが、僕の中ではそこまで苦しいとか、悩むとか、焦るといったことはなく、心折れずに日々のトレーニングに取り組むことができました。それはおそらく、1年目の、まったく試合に出ることができなかった時を経験しているので、今回は逃げずに、我慢強く、練習から自分に向き合えたんだと思います。
―監督が代わり、選手も大幅に入れ替わった今季の新生チームを池髙選手はどのように見ていたのでしょうか。
このチームは僕にとっては4チーム目です。プロ5年目としては、たくさんのチームを見てきた方だと思いますが、その中でもチームの雰囲気はすごくいいなと感じました。練習での意欲や盛り上がりもすごく良い。でも、結果がなかなかついてこない。それは足りない部分があるからだと思うのですが、正直、僕自身もなぜこういう状況になったのかはっきりとは分からない、戸惑いはあります。
―初先発は第14節のガイナーレ鳥取戦です。出場機会を得るためにそれまでに取り組んだことは?
自分の良さを出すことに努めました。でも一番は、自分がチームのためにできることを、手を抜かずにやること。例えば声を出してチームを盛り上げるとか。そこはブレずにやった、できたと思います。
―その時期に監督に求められたことは?
個人の課題という意味で言えば守備の部分ですね。ファーストディフェンダーとして守備のスイッチを入れることが自分のポジションでの役割だったので、その時のスピードの変化、ボールホルダーに寄せる強度を求められました。あとは、サイドバックやウイングバックの選手とのコミュニケーション、ボランチとの距離感も常に意識するようにアドバイスを受けました。
―第15節のAC長野パルセイロ戦から、チームのシステムが4バックから3バックに変わりました。それにより池髙選手はサイドハーフからシャドーというポジションに変わった。そのことは池髙選手が先発の座をつかむ上で影響したのでしょうか?
サイドハーフの守備は中を締めながら圧力をかけるので駆け引きをしながら、という感じですが、シャドーの場合は前向きに行く守備が多くなり、その分、高い強度が求められます。僕の場合はどんどん前に出て行くシャドーでの守備の方が合っているように感じましたし、実際にやりやすかった。やりやすさを感じながら、それによって積極的にプレーできていたことを監督に認めてもらったのかもしれません。
―個人の守備戦術でレベルアップを感じる部分は?
始めはプレスのスイッチ役としては勢いが大事だと思っていたので、とにかく自分が行けると思ったタイミングでスプリントをかけていました。でも、それでは効果的なプレスとはならない。だから『仲間と一緒に守備に行く』という意識をそれまで以上に強く持つようになりました。守備の時でも後ろを振り返って仲間の状況を確認する、周囲を見て仲間と目を合わせる。攻撃の時に目を合わせるのはそれまでも意識してやってきたことですが、守備の時になかなかできなかったこと。それができるようになったことは守備における個人の成長じゃないでしょうか。
―いわゆるアイコンタクトですね。左サイドで言うとウイングバックの乾貴哉選手と目を合わせて意思疎通を図る、ということですね。
もちろん、練習の時にはしっかり会話をしてお互いの意志を確認する。それがあっての試合でのアイコンタクトです。試合中はスタンドからの声援でお互いの声が聞こえないことも多いですからね。貴哉くんは目だけではなくて、例えばスタートを切る時に分かりやすいアクションをしてくれるので意志が伝わってきます。
―初先発の鳥取戦がチームにとっての12試合ぶりの勝利でした。勝った時の気持ちは?
(夛田凌輔選手の)決勝ゴールは僕がベンチに帰ってからのものでしたが、あの試合で結果を残さないとその後の先発定着はないと思ってプレーしていたので、チームとして勝てたことは素直にうれしかったです。
―鳥取戦後からしばらく先発が続きました。その間の試合や練習で意識して取り組んだことは?
過去でも長く先発で出るという経験がなかったので、先発の座は失いたくありませんでした。だから試合におけるミスは許されない、そういう強い危機感を常に持ってピッチに立っていました。もちろんコンディション的に調子が悪いなんてことになったらアウトなんで、そこも気を付けました。
―失点が重なり勝点を手にできない状況の中でチームは守備の安定化に動きました。そういう流れの中で池髙選手も個人の守備力向上に努めたわけですが、その中で池髙選手の持ち味である攻撃力をどのように発揮したいと考えていたのでしょうか。
もちろん得点とアシストという目に見える結果は絶対に必要で、そのためにはまずゴール前にいる時間と回数を増やすこと、積極的にシュートを打つことが大事になります。でも、それは個人の頑張りだけではなく、チームとしてしっかりと攻撃の時間を確保する、回数を増やすことが条件になりますから、そのために自分に何ができるか、何をすべきかを考えてプレーしていました。それに関して、時間はかかりましたが、最近の試合ではチャンスの数も増えていて良い方向に進んでいると思います。ただ、もっと時間も回数も増やす必要があると感じています。
―しばらく先発の座を確保していましたが、第24節・鹿児島戦ではメンバー外になりました。
続けて出て、正直、パフォーマンスも悪くない状況で外れたので大きな危機感を持ち、さらにもっとやらなきゃ、と感じました。
―「もっとやらなきゃ」とは、どういう部分で、何を?
守備もこれまで以上に質を上げていく必要がありますが、やはり一番は攻撃のところ。得点をいかにして奪うかがチームとしての今の大きな課題です。攻撃は自分の持ち味でもあるので、そこで結果につながるようなプレーをしなくちゃいけない。最近は僕自身でシュートが打てていません。シュートへの積極性という気持ちの問題、それから守備にパワーを使っていることもその理由だとは思いますが、それだけではないことも分かっています。攻撃時のボールへの関わり方、関わる時のタイミング、もちろんポジショニングなど、いろいろな点が不十分だからでもあるはずです。そこは自分なりに分析して向上、修正していかないと。
―先ほども口にされましたが、練習と試合でよく声を出しています。なぜ、そこにこだわるのでしょうか。
自分は『雰囲気』にすごく敏感です。それがチームとして戦う上でとても大事だと思っているので、声を出すことで少しでも雰囲気をよくしたいという気持ちがあります。それと、自分のお尻をたたくじゃないですけど、気持ちを言葉にして外に出すことで「自分もやらなきゃいけない」という気持ちになれるからです。
―声で変えられるものとは?
雰囲気、意識、姿勢、集中力、ですかね。戦う上で戦術、戦略ももちろん大事ですが、そういったものもそれ以上に大事だと僕は思うので。声を出すことは結構キツイんですけど、「しんどいからこそ俺が出さないと」と考えます。
―話は変わりますが、出身地である北海道は今年の夏は酷暑に見舞われて大変だったようですね。
ニュースを見て知ってはいるんですけど、実家からは特に連絡はありません。ただ、帯広に住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんのところは大変だという話は聞いています。
―北海道の家庭におけるクーラー保有率は40%を少し超えるくらいという情報をお見掛けしましたが。
そういえば、僕がまだ実家に住んでいたころは、暖房設備はもちろんしっかりしていましたが、クーラーはあったかな? いや、そういえば扇風機だけだったように思います。それでも何の不便はありませんでしたよ。
―その北海道には帰っていますか?
毎年、正月には帰りますが、シーズン中はなかなか。楽しみはオフに取っておきます。
―今年はチームに多くの大卒ルーキーがいますね。
去年のチームでの同い年は田中悠也だけでしたし、それまでのチームでもほとんどいなくて。そういう意味では同年齢の選手が多いことはうれしいんですけど、いまは多過ぎて(笑)戸惑う部分はあります。その中で一緒に行動することが多いのは、高昇辰、高吉正真、岡野凜平。でも、浦和ユースの時から一緒のハルキくん(井澤春輝選手)とか先輩といることが多いかもしれません。
―今年、オフ・ザ・ピッチで変わったこと、変えたことはありますか?
僕はプロになって2年間同じチームにいるのは今年が初めて。同じ人とサッカーをすることで、自分のプレースタイルを分かってくれているのでやりやすさがあります。私生活でもさらに仲良くなったし。そういうところがこれまでと変わったことですかね。これまで1年でチームが変わっていたのですが、馴染むところから始まって、馴染んだ頃にはみんなとお別れ。そういうことが続いてきました。それって正直、しんどいです。だから「2年目」の今年は楽というか、すごく良い感じです。
―池髙選手はセットプレーのキッカーも務めます。キックのこだわりはありますか?
セットプレーのキックでは4歩の助走で蹴る、と決めています。あとは、ゴール前の状況を見るのは蹴る前。蹴る瞬間はボールを見る。蹴る前にゴール前を見て決めた軌道、コースのイメージに沿ってボールを蹴る。そんな感じです。いいボールを蹴ることができない時というのは、ゴール前の様子が気になって蹴る瞬間にボールから視線を外した時。だから蹴る瞬間はボールに集中するんです。
―なぜ「4歩」なのでしょうか?
いつからそうなったかは定かではないんですけど、蹴っていく中でつかんだ距離なんだと思います。
―今季のアシストはまだありませんが、セットプレーからのアシストも期待できますね。
これまでのアシストは流れの中からのクロスによるものがほとんどだと思うので、そろそろセットプレーからのアシストも残したいですね。
―残りのシーズン、自分をどう高めていきますか?
一番はチームの結果であり、必ず残留を果たす。自分としては結果を残すこととチームの目標達成がつながれば、なおいい。
―試合に出場する、得点に絡むという自分の目標を達成することと、チームの目標達成は自然とリンクするものでしょうか?
1人でやるスポーツではないので、自分がやることはマストで、さらにチームのためにやるべきことをやらないとチームとしての結果はついてこない。リンクしているんじゃなくて、リンクするように努めないといけないんだと思います。特にいまはチームとしての攻撃がしっかり得点に結びつくようになれば勝てる状況に来ていると思います。だから自分が得点やアシストを重ねれば勝点獲得につながるかもしれないし、仮にそれができなくても仲間がそういう結果を出せるようなサポートをすることで、チームも勝てるんじゃないか、と。
―いま、チームは苦境の中にありますが、そこで得るモノはありますか?
冷静に考えれば、最下位もそうそう経験できるものではありません。自分も初めてです。でも、ここから這い上がることで初めて見えるモノもあるんじゃないかと考えています。だから恐れず、逃げずに、最後まで戦います。
文・島田徹 写真・筒井剛史
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