SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season5
第3回 深掘りインタビュー
平原隆暉 選手
『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season5の第3回は今季の第2節から6試合連続出場、1試合出場79分のプレーに終わった昨季から飛躍的な成長を遂げた平原隆暉選手の登場です。加入2年目の今季ここまでで感じた新たな感覚、新たな経験、そして新たなチャレンジについて深掘りしてきました。(取材日/5月1日)。
―取材日が誕生日となりました(5月1日)。20歳の誕生日、おめでとうございます。インタビュー後の予定は?
同期加入の井野文太選手と伊東進之輔選手とご飯に行きます。
―もちろん2人がごちそうしてくれる?
いやー、どうでしょうか……、うん、かもしれないです、かもしれないです!
―同期でお互いに祝い合う?
誕生日プレゼントは送り合います。
―ご家族から連絡は?
電話の通知はありました。折り返していません。
―ご家族からもプレゼントが?
プロになってからはありません。
―聞いたところによるとご実家はお寺ということですが。
はいそうです。
―ご実家がお寺だから、ほかの友達と違う育ち方をしたと感じることは?
お盆は普通、休みだと思いますが、僕は檀家さんの家に行っていたので、いわゆるお盆休みがほとんどありませんでした。
―お父様の後にくっついて檀家さんの家に行っていた?
そうですね、小学生までは父親についていく感じで、そのうち僕自身がお経を唱えに檀家さんの家に行っていました。
―えっ⁉ 一人でお経を唱えに?
そうです、中学生になってからはそうでした。「ごめんくださーい」って言いながら家に上がってお経を唱えさせていただきました。これは普通の家で育ったら経験できないこと。良い経験をさせてもらったと思います。
―ちょっと待ってください。中学生が袈裟を身に付けて、お経を?
最初は中学生の僕が行くと驚かれるんですけど、父親についていっていたので、檀家さんは僕のことを知ってはいるので、すぐに理解してくれて。僕には姉と妹がいますが、二人もそれぞれ僕と同じようにお盆には檀家さんのところにうかがってお経を唱えさせていただいていましたよ。
―お盆の時期にどれくらいの檀家さんを回るのですか?
妹も行けるようになってからは、二日間で30軒くらい。やっぱり最初は緊張しましたよね、一人であまり知らない方の家に上がるということで。
―一人でお経を唱えることではなく、知らない家に上がることに緊張⁉ いろいろな衝撃的事実の判明に少し動揺していますが、本題に入ります。プロ2年目の今季は試合出場数が一気に伸びました。そのことで、いろいろな初体験をしているのではないかと思い、そのあたりのことを中心にお話をお聞かせください。
まず、僕が試合に出ている間はチームが勝てていない状況でした。その時に強く感じるようになったのは、攻撃的なポジションでプレーしているから試合を決める得点を決めなきゃ、という意識。安パイなプレーをするだけでは現状維持。無理なプレーにもチャレンジしていかないと成長はないし、ゴールも取れないと感じました。
―平原選手の武器はスルーパスを含めた配球能力の高さにあると感じていました。アシストよりも得点を意識するようになったと?
アシストは自分の強みではあるのですが、ゴールを奪える選手じゃないと、相手はきっと怖くないんです。相手にとって脅威となるプレーをする、そういう選手にならないといけない。そう強く感じたことが、試合に起用し続けてもらって感じた、自分の中に起こった変化です。ゴールを取れる選手が上のレベルにいけると思いますし。
―確かに今季ここまでの試合で積極的にゴール前に入って行き、シュートを打つ姿を目にしています。
決定的なシーンもあったのですが、そこで決め切れていない。そこは自覚しているので、シュート練習もさらにこだわっていかないといけないと思っています。
―得点を取るために一番意識すべきことは?
まず、ゴールの近くでプレーすること。単純なことですが、それが一番大事かな、と。中盤に下がって中継役に回ることも自分の長所だと思うし、それはしっかりやりながら、そこからゴール前に入って行ってシュートを打つ機会を増やすことが大事。
―ゴール前に入って行くことを意識するようになると、中継役としてボールを持つ時間が減ったのでは?
はい。自分で良い攻撃を構築したいという気持ちから自然とボールを保持する時間が長くなっていたのですが、それもありつつ、シンプルにボールをはたいてパスの循環をよくすることも大事だと考えるようになりました。ただ、実際の試合になるとボールを持ちすぎて相手に奪われる場面がまだまだあるので、そこは改善していきたいところです。
―去年はどういう意識でプレーしていたのでしょうか。
ボールを受けたら前を向く、そういう意識は持ってプレーしていました。バックパスをするのではなくて、自分で受けたら前を向く。それは去年からコーチに「それが隆暉の強みだ」と言われていましたから。それは確かに自分の武器になり得るので、今年もそこは継続しながら、でもシンプルにボールを動かす意識も同時に持つようにしています。シンプルに動かして、ゴール前に入ってそこでもう1回ボールを受ける。それが得点というところにつながると、最近は意識しています。
―先発で出ているけれどもなかなか勝てない。勝てない苦しさはこれまでにも味わったことがありますか?
実は高校時代にもありました。その時も前のポジションでプレーしていて、その時も自分がゴールを奪えていないことが関係しているんじゃないかと感じたんです。そして、今も同じ状況になった。だから、自分でゴールを、という気持ちが強くなった。得点を取ることでチームを勝たせる。そういう選手に成長していかないといけないんじゃないか。そういう思いが、なかなか勝てない中でどんどん大きくなっていきました。
―同じ勝てない時期があっても、高校の時とプロとは周囲から求められる勝利への期待度が違いますよね。
負けた後のファン、サポーターの方々の表情を見ると、僕たち以上に悔しそうです。そういう表情を見ると本当に苦しくなります。それでも声援を送っていただける。だからこそ早く恩返しをしなくちゃ、と思うんです。
―守備の貢献度もかなり高い。その意識の高さはプロに入ってからのものですか?
いいえ、高校の時からそこは意識高くできていたと思いますし、特に苦手意識はありません。ただ、プロになってから不十分さを感じます。特にフィジカル面がまだまだ弱いので、しっかりとして守備ができていない。足は動かせているんですけど、当たり負けしてボールを取り切れない。プロはそんなに甘いもんじゃないと理解しているので、まずは自分のラインを越えさせないようなアプローチをしていく。同時にフィジカルを鍛えながら、最終的には自分のところでボールを奪い切れるようになりたいと考えています。
―プレスバックしてボールを奪う場面を何回か見ましたが?
まだまだです。そういうプレーを印象付けるまでには至っていません。もっともっと、ですね。味方にそういう選手がいたらチームにとっては本当に大きな助けになります。攻撃もできてボールを奪える。そういう選手になりたいし、そういう選手が相手にとっては怖いでしょ?
―守備に面白さは感じていますか?
ボールを取れた時はうれしいし、楽しいし、面白い。ただ、そういう場面はまだまだ少ないです。
―ボール奪取のところで参考にする選手はやはり……。
そうですね、高吉正真選手ですね。一緒にやっていて僕の印象に残っているということは、それだけ多くのボール奪取を成功させているから。奪い方も、うまい。さっきの話になりますが、フィジカルを高めるという目標もあり、そこも高吉選手は優れているので、一緒に筋トレをしています。
―去年よりもたくましくなりましたか?
外から見ていてどう感じますか? 体重で言うと、2キロくらいは増量しているのですが。実際の球際の争いで去年よりはましになったとは思いますが、まだまだです。
―オフの取り方や食事のとり方はどうでしょうか、今年になって変わりましたか?
食事回数を増やしています。体に良いものを軽食で取るようになりました。それからサプリメントも。フィジカルが課題なので、そこもしっかり取り組まないといけないと思って。
―テレビ番組でも取り上げていた「まりん食堂」では焼き魚定食がお好みだとか?
もともと魚は好きですが、栄養の面でも優れていますから。
―1日の時間の使い方に変化は?
例えば睡眠時間は、8時間は取る。これは去年から継続していることです。起きる時間からの逆算で就寝時間を決めています。午前練習のスタート時間を考えると、22時半前にはベッドに入っています。
―趣味は?
最近はカフェによく行きます。
―家でどう過ごしていますか?
う~ん、韓流ドラマを見ます。「トッケビ」です。ハマっています。
―日本のドラマと何が違うのでしょうか?
日本のドラマはほぼ見ないので、比べようがありません。日本の映画は見るんですけどね。
―テレビを見ない?
あまり見ません。たぶん、ほかの同年代の選手もそうじゃないですか。
―サッカーは見ますか?
はい。Jリーグも見ますし、海外だとマンチェスター・シティの試合は全部見ています。シティのサッカーは見ていて面白い。
―シティでお好みの選手は?
自分とはタイプは異なりますが、ベルナルド・シウバ選手(ポルトガル代表)は見ていて楽しい選手です。
―プレーヤーとしての理想像は?
やはりシティのケヴィン・デ・ブライネ選手(ベルギー代表)ですね。
―今の自分と比較しての違いは?
全然、違いますよー! まずフィジカルが違う。キック精度。推進力。得点力も。パスも出せて点も取れる。あんな選手になりたい。
―サッカーの試合を見る時はやはり中盤の選手に目が行く?
そうですね。中盤の選手が相手をどうやってはがすのか。そういうところを中心に。フォワードやディフェンダーのことも気にしますが、でもやっぱり中盤の選手に目が行くんです。
―こういう選手にパスを出してみたい。そういう選手はいますか?
シティを見ていると、やっぱりアーリング・ハーランド選手(ノルウェー代表)ってなりますよね(笑)。強いし、うまいし、速いし。でもああいう選手はどんなパスでも決めてくれそうな気がします(笑)。
―田坂和昭監督になって選手間のコミュニケーションが大事にされていますが、コミュニケーション能力はあるほうですか?
苦手ではありませんが、少し人見知りするタイプなので、最初は少し遠慮気味になります。でも、サッカーの話だと積極的に話せる方だと思います。
―サッカーの話をするときに、例えばこのポジションの選手とは話が合わない、ということはあるのでしょうか?
それはありません。意見とか、見方が違うから話さない、ということはありません。いろいろな意見があるのは当然で、それを知ることは面白いですから。価値観が違うから面白い、というのはありますよ。
―同期とは当然仲が良いとして、先輩では誰と仲がよいですか?
加藤有輝選手です。ご飯によく誘ってくれます。同じ埼玉出身というのもあるでしょうし、加藤選手の大宮アルディージャの先輩である石川俊輝選手が、僕の小学校の時のチーム「大増サンライズFC」の先輩で、石川さんが加藤選手に「後輩だからよろしく」とおっしゃってくれたこともあって、加藤選手にはいろいろとお世話になっています。あとは山脇樺織選手も、ですね。
―2人ともおしゃべりさんですね。
ハイ(笑)。でも、僕からも話しますよ。
―去年は昌平高校の先輩、針谷岳晃選手(現・ジュビロ磐田)もいました。
とてもお世話になりました。ケガをして一緒にリハビリをする期間もありましたし。すごくよくしてくれました。
―そういえば、昨年はよくケガをして別メニューとなっている印象があります。
その通りです。今年は大きなケガなくやれています。
―ケガなくできている理由は?
練習前の準備もしっかりしていますし、ケガ予防のトレーニングも入れていますし、トレーナーの方にもケアをしてもらっています。
―そこもプロらしくなったところですね。プロ・プレーヤーであることを自覚する時は?
遠征の時に「こんな贅沢していいの?」と思うことがあるんですけど、そういう時ですかね。アウェイゲームのあとに後泊もします。お金がかかるなぁと思って。それだけのお金をかけていただける分、しっかり働かないと、と思います。
―贅沢に敏感なのは、実家がお寺ということも関係しているのでしょうか?
それは関係ないと思います(笑)。でも、親には無駄遣いはするなとずっと言われてきたので、今もどちらかというと、貯金派な方だと思います。お金をかけるのは、やはり食事関係ですね。
―自分が出場した第8節まででのベストゲームは?
やはり勝った第2節のカマタマーレ讃岐戦。自分のパフォーマンスが良かったわけではありませんが、やっぱり勝つことが大事なので。
―昔から個人のパフォーマンスよりもチームの勝利が大事だと考えていましたか?
どちからという逆でした。自分のパフォーマンスを重視していました。でも、こういうチーム状況の中で何とかしようとみんなでもがいていると、やっぱり勝利こそが大事と思います。まあ、プロだから勝利第一と考えるのがプロとしては当たり前なんでしょうけど。
―そうなると負けた時の悔しさも、大きくなる?
その通りです。本当に悔しい。
―第2節から第7節まで先発出場を果たしましたが、第8節でベンチスタートになりました。どんな気持ちでしたか?
悔しかった。でも、チームを勝利に導く働きができておらず危機感はあったので、ある意味納得して、気持ちを切り替えてまたチャレンジしようと思いました。
―最後に、これからチャレンジしたいことを改めて聞かせてください。
アシストとゴールの両方で結果を出せる選手になること。そのためにフィジカルを強化していくこと。強くすると同時にうまく身体を使えるように。それから最近はボールを持った時のミスが多いので、ボールを扱う技術をもっと高めること。それが自分の強みではあるけれど、もっともっと高めて、もっともっと怖い選手に。そうなれるように日々の練習からこだわっていきたいと思います。
文・島田徹 写真・筒井剛史
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