SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season7
第2回 深掘りインタビュー
樺山諒乃介 選手

『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season7の第2回目は今季、サガン鳥栖からの育成型期限付き移籍でギラヴァンツ北九州の一員となった樺山 諒乃介の登場です。圧倒的な技術力とセンスを発揮して早くもチームの中心的な存在となっている22歳の今季にかける思い、そしてプレーヤーとしての本質を深掘りします(取材日/3月12日)。
―池西希スポーツダイレクターから聞いた話では、そもそも樺山選手はJ3チームでのプレーは考えていなかった、と。
過去にJ1でもプレーしていたし、世代別の日本代表でプレーした経験もあり、上のカテゴリーに行きたい思いがありました。そういう気持ちを持ちながら池西さんと増本監督との面談に臨みました。

―池西SDからはどんな言葉を聞いたのでしょうか?
まずは『樺山君の本来のプレースタイルをギラヴァンツ北九州で発揮してほしい』ということ。そういう言葉だけではありませんが、自分の特徴を分かってくれている監督と、僕のキャリア全体のことを考えてくれる強化担当者お二人が、ものすごい熱を持って誘ってくれたことに心を動かされました。
―ほかのチームからのオファーは?
他クラブからの誘いはありました。サガン鳥栖でプレーしていた時から、九州という地域の良さを感じていましたし、だから九州に戻って来るという可能性は自分の頭の中にありました。そういう中で熱意のある誘いに心が動かされました。

―樺山選手が加入してすぐに立ち話をさせていただいた時に、「池西さんからは自分の価値を高めてほしい」という話もされたとおっしゃっていましたよね?
池西さんから『これまではジョーカーとして周りに見られてきたようだが、ギラヴァンツ北九州で90分フル出場できるような選手になって、周囲の見方を変えないか、自分の価値を高めないか。それができればまた見える景色も変わるんじゃないか』と言われました。確かに僕も代理人もジョーカーというイメージからなかなか抜け出せないことが大きな悩みであり、一番の課題でした。そこをビシッと突く言葉は心に刺さりましたね。
―主に試合終盤にピッチに入って試合の流れを変える、決めるという切り札的な存在が『ジョーカー』と呼ばれるわけですが、それ自体は選手としての能力の高さを示す言葉でもあります。
プロ1年目、2年目、ビッククラブの一つである横浜F・マリノスの中でジョーカーと呼ばれ、認められていることは素直にうれしかった。でも、2023年に鳥栖に行った頃から、自分はいつまでジョーカーと呼ばれ続けるんだろうという思いを持ちながらプレーするようになりました。僕は大学卒1年目の選手と同じ22歳になり、試合にはスタートから出なければいけないと焦りも出てきました。

―今季初戦の第2節・AC長野パルセイロ戦できなり先発フル出場を果たしました。しかも渡邉 颯太の追加点を見事なスルーパスでアシスト。89分までプレーしたことは過去に2回あったようですが、この長野戦が樺山選手にとってプロ初のフル出場となりました。
90分間出ることができたのは、素直にうれしかった。「ここまでやれるんだ」と思える収穫は大きかった。本当はあの試合は「自分のゴールで開幕したい」という思いで臨んでいました。序盤から相手が自分のことをマークしているのが分かったので、どういうふうにボールを受けて、チャンスをつくろうかと考えながらプレーしていました。前半からボールは受けられたけれども、なかなかゴールに結びつくようなプレーはできず。でも、あの時間帯(72分)で一つ仕事ができて良かったと思う北九州でのデビュー戦となりました。

―第4節のカマタマーレ讃岐戦でも河辺 駿太郎選手の加入後初ゴールをアシストしました。開幕後3試合の自身の出来をどう捉えていましたか?
すべて先発で起用していただいたことはうれしいし、良かったと思います。ただ、攻撃陣の一人だし、ゴールは取りたい。加入するにあたって『二けた得点と、できるだけ多くのアシストをつけること』を自分の目標としました。僕はスコアラーになりたいわけでも、パサーになりたいわけではなく、両方で結果を残す『ナンバー10』になりたいという理想を持っています。だから、アシストが伸びているのは良いことですが、得点がないことは不満。得点チャンスがないわけではなく、そういう場面に顔を出せてはいるので、ゴール前の発想や両足を使えるという自分の武器を生かしてここから得点数を伸ばしていきたい。
(※第8節・FC大阪戦で今季初ゴール!)。

―J3リーグを数試合戦っての感想は?
調子に乗って言うわけではなく、自分ができることが多いと感じることはできています。といっても、リーグのレベルが低いとは思っていません。球際のところの強度は高いし、相手が自分を警戒していることは分かるので、今年1年は難しいシーズンになるだろうと思っています。でも、その中でどれだけ自分が数字を残せるかを毎試合意識してピッチに入っているし、必ず結果を出したいと意欲が持てるリーグだと思います。

―チームメイトで刺激を受ける選手はいますか。
まず、とても仲よくさせてもらっているのはスンジン(高昇辰選手)。毎日、一緒にいます。昨日も1時間くらい“暇電”をしました。何を話したかまったく覚えてないくらいの他愛もない会話。いままでも仲の良い選手はいましたが、スンジンは同じ関西出身というのもあるし、まだチームメイトになって数カ月ですが、昔から知っている感覚で付き合わせてもらっているトップクラスの仲良しです。
―あとは?
リョウ君(永井龍選手)のファッションは参考になります。ヤマト君(町田也真人選手)の人の好さには感心しています。ヤマト君をはじめここにいる先輩はみんな良い人。いまのチームの雰囲気が良いのも、コウヘイさん(喜山康平選手)をはじめとした経験豊富な選手のお陰ですし、それで若手が伸び伸びとできていると思っています。

―練習中、試合中によくチームメイトとコミュニケーションを取っていますね。
自分からの要求はもちろん、仲間からの「こうしてほしい」という声も聞きます。やっぱりチームとして良いサッカーをするために意見交換はすごく大事ですからね。自分からの要求を伝える時の言葉のチョイスは気を付けています。自分が偉そうな言葉を使えば、味方はいやでしょう。それは自分が逆の立場ならそう思うわけだし。
―監督とのコミュニケーションは?
マスさんとも試合中によく話します。マスさんは「選手と監督は対等の立場でいい」と言ってくれるので、僕だけではなく他の選手もそれぞれ感じたこと、気づいたことを素直に伝えることができています。マスさんのそこが魅力の一つ。ああしろ、こうしろ、監督である俺の言うことを聞け、というスタンスとは違う。だから、マスさんのために良い結果を出したいと僕だけではなく、ほかの選手も思っているはずです。

―樺山選手は相手陣内に入ってから味方からのパスを受ける頻度が非常に高い。そこにチーム内での樺山選手への信頼の高さを感じます。
面と向かって言われることはありませんが、相手陣内で僕にボールを託してくれるので信頼されているのだと実感できますし、すごくうれしい。
―どういう形で責任を果たしていますか?
例えば守備でしっかりと足を動かす、切り替えの部分でサボらないとかを意識してプレーしています。それがあるから仲間も僕にボールを託してくれる。責任を果たそうという姿勢を見せているからこその信頼。責任を果たさなければ、その信頼は失うはずです。

―責任を果たすことにフラストレーションを感じますか?
まったく。楽しんでいますから。挑戦的なスルーパスを出す、ドリブルをする。それを許されているからこそ、ミスした時にはすぐにボールを奪い返すアクションを起こす。僕はまだまだ個人的にステップアップしたいと考えています。J1はもちろん海外でもプレーしたいという思いがあります。だから今の段階で『王様』のように振る舞っていてはダメだと思っている。何年後かの未来を見据えて、今の自分にできることを精一杯やって、自分を少しでも成長させたいと考えています。
―オフィシャルカメラマンからの情報によると、試合日にミクスタに到着すると、必ず樺山選手は裸足で、音楽を聴きながら、ピッチに出てきてボールと戯れている、と。これはいわゆる試合前のルーティーンなのでしょうか?
1回ピッチに出て、その雰囲気と自分の足の感覚を確かめるためにやり始めたこと。アウェイの試合でも時間があればやっています。冬場でも裸足ですね。そのほうが、自分の感覚に合わせやすい。小さいころに家の中で、裸足でボールを蹴っていましたが、その頃の『楽しむ』という感覚を思い出しながら。

―それはプロになってから始めたルーティーンですか?
そうですね。ただ、高校の時からロッカールームで友達とリフティングをする、みたいなことはやっていました。
―そこで聞く音楽は?
ヒップホップが好きなので、その系統の音楽を。よく聞くのは日本の『BAD HOP』(24年に解散)というグループの音楽です。音楽を聴くだけではなく、子どもの顔をみたくて妻にテレビ電話をつなぐこともあります。

―勝手なイメージで申し訳ないのですが、樺山選手はエゴイストだと思っていました。
間違っていないかも(笑)。めちゃくちゃ自己中だし、自分が誰よりも活躍したい、という思いは持っているから。でも、味方を生かすことで自分がフォーカスされることは実際にあるわけで。おそらくギラヴァンツ北九州のサポーターの多くが僕のことをゴリゴリのドリブラーというイメージで見ていたのでは。実際、そういうプレー映像が流れてもいましたから。でも今の自分は真ん中で結果を残すことを求められているので、サイドにいる時よりも、ドリブルで仕掛ける回数は少ないと思います。
―樺山選手が発する雰囲気やボールタッチを見てレフティーだと思っていましたが、右利きなんですね。
左利きに見えるくらい、左足でもボールをうまく扱えるようになりました。それは昔、僕が好きだった選手に左利きの選手が多く、彼らのプレーを真似してボールを蹴るようにしていたら、レフティーのようなキック、ボールの持ち方ができるようになりました。

―例えば、真似した左利きの選手とは?
もちろんリオネル・メッシがいて、あとはユベントス時代のパウロ・ディバラ(アルゼンチン代表、現・ASローマ所属)、アントワーヌ・グリーズマン(フランス代表、現・アトレチコ・マドリード所属)あたり。もともとエデン・アザール(元ベルギー代表。23年に引退)が好きで、彼は右利きでしたが、そのあと左利きの選手に目が行くようになって、中学生くらいの時に「左利きになりたい」と思い始めて、ひたすら左足でボールを蹴るようになりました。それでシュートは左足の方が入る確率が高いところまで行きました。
―ドリブル総数はチームトップ(第5節時点で16回)でありながら、被ファウル総数はチーム最少の8位タイ(第5節時点で1回)。ファウルさえ受けないレベルのドリブルをしている、ということなのでしょうか?
身体が大きくないけれどもアジリティー能力はあったほうなので、高校のころからボールを受ける前の準備、相手との距離、間合いの取り方で相手を上回ることができる、と指導し続けてもらいました。つぶされるシーンが少ない、あるいは相手とぶつかる場面は少ないと思います。だからファウルを受けにくいのかもしれません。

―スルーパスの総数もチーム1位(第5節時点で12本。2位の山脇樺織選手が6本)。チャンスクリエイト総数も1位(第5節時点で8回。2位の山脇樺織選手が6回)。
さっきも言いましたが、何でもできる選手になりたいと思っているので、そのデータは自分にとって良い傾向かもしれません。ただやはり得点数が……。僕以外のアタッカーは、それぞれが光る武器を持っています。それを生かすも殺すも、僕にかかっている。そういう責任を感じながらプレーしているので、それがチャンスクリエイト数に表れているのだとしたら、うれしいことです。
―長野戦の渡邉選手へのアシスト、讃岐戦の河辺選手へのアシストもそういう意識が生んだモノなのでしょうか?
例えばタロウ君(河辺駿太郎選手)へのスルーパスは、ほかの選手だったらあと2、3メートル後ろにボールを届けていたと思います。でもトップレベルのスピードを持つタロウ君へのパス、しかも相手のセンターバックが僕の方に身体を向けていたので、さらに前方に走らせるパスを送れば、相手の守備ラインを千切れると感じました。あそこに届けてタロウ君がクロスを上げてもいいし、実際にそうなったように切り返してのシュートでもいい。そういうイメージを持って出したパスでした。

―もし樺山選手が今後、サイドでプレーすることがあった場合、周囲を生かすプレーよりも、ドリブルで抜いていくプレーを選択するのでしょうか?
僕には三笘薫選手(日本代表)のようにスピードがあるわけでもないし、あるいはパワーでゴリゴリとボールを運べるタイプではないので、相手2,3枚を一気にドリブルで抜いていくのは自分にはできないし、それは自分の良さと捉えていません。ドリブルで運びながら相手複数人を食い付かせたら、一瞬の隙を突いて、もっと良い状態にある味方選手へパスを出す。それが自分らしいプレーだと思います。だからサイドでプレーしてきたこれまでもスルーパスの数は多かったはずです。
―また勝手なイメージですが、もっと感覚派のプレーヤーだと思っていました。しかし先ほどの河辺選手へのパスの話を聞くと、かなり論理的にプレー判断をしているのですね。
ボールタッチに関しては、かなり感覚的なモノがあると思います。ですが、ラストパスやゴールを奪いに行く場面では相手の状況がかなり重要になるので、よく見て、そこからどうするかの判断を下すようにしています。でも、ポジショニングを考える際に、あそこが空いているから行こうとか、あのスペースを味方に使ってもらいたいから自分はここにポジションを取ろうとか、もちろんそういうこともしますけど、“戦術家”のようにすべて論理立てて判断を下しているわけではありません。

―感覚的との判断のバランスが重要?
論理的な判断は、いわゆるセオリーを元にしたものなので、対応する相手に読まれる可能性が出てくる。だから、マスさんにも「いまの感覚でプレーしていいよ」と言われていますし、あまり考え過ぎずに、時に感覚的な判断を下すことは、相手が対応しづらいという意味でも、大事にしたいところですね。
―まだ、開幕して時間は経っていませんが、北九州に来て良かったと思いますか?
まだ大きな結果、目標を達成できてない、いまの状況で言うのはおかしいかもしれませんが、ギラヴァンツ北九州でプレーすることを決断して良かったと思っています。ファン、サポーターの方々が僕に期待を掛けてくださっていることは、日々の練習での声掛けや、試合の中での声援に感じています。そういう人たちもの大きな期待を背負いながらJ2昇格を果たして、みんなと喜びを分かち合いたいし、自分の居場所をつくりたい。そういう気持ちになっています。

文・島田徹 写真・筒井剛史
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