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シマダノメ
第2回 深掘りインタビュー
小林伸二監督(後編)

シマダノメ 第2回 深堀インタビュー 小林伸二監督(後編)

シマダノメ 深堀りインタビュー』の第2回目は前回に引き続き小林伸二監督兼スポーツダイレクターの登場で、その後編をお届けします。今回は定評のある若手指導の方法やスポーツダイレクターの仕事について深堀りしました(取材日=2019年1月24日)。

―若手の指導に定評がある小林監督ですが、練習を数日見せていただいた感じでは、上から目線というよりも、選手との距離が近い、“優しい"指導をしているように見えました。

私が強い口調で言う時は一つ。『やれるのに、やらない時』です。できないことはできない。もちろん、練習すればできるようになることもありますが、練習をする前にできないからといって叱ることはありません。その時は「きっとやれるようになるから、こうしてみたら」という声をかける。そうして時間が経てば実際にやれるようになることが多い。そういうアプローチの方が選手は変わりますね。

―ほめて伸ばす、という感覚でしょうか?

良い所を伸ばしてあげる。しかもレベルを上げながら、です。一つの課題がクリアできたら、「よくやった。じゃ、もっと良くなるにはここをこうした方がいいんじゃない?」というふうに。充実感を味わせながら、でも一つできたからといって満足させないことが大事です。彼にとっての次の課題を見つけられるかどうか。それが、われわれ指導者の大事なポイントでもあるんですよね。そうやって一つひとつレベルアップしていくことで、選手は「サッカーってやっぱり面白いな」と思うでしょ?

―小林監督はその面白い、という感覚を選手には持ってほしいと?

だってサッカーで飯を食べる道を選んだってことは、サッカーが好きだからなんでしょ? そのサッカーが面白いと常に感じられたら、そりゃ選手もうれしいでしょ! そういう選手は練習場に来るのも楽しいはずで、楽しそうに練習場にやって来る選手を見たら、私も、うれしくなるものなんです。

―その感覚があるから「去年まで悔しい思いをした選手が見返せるようにしてあげたい」との監督の発言にもつながる。

既存の選手たちはこの2年、悔しい思いを持ちながら、かなりきつい思いもしてきたと思うんですよ。だから、もう一度、楽しいという感覚を取り戻してほしいし、彼らがそういう思いを持つことがチームのエネルギーにもなる。今季の新加入選手の力だけでAクラス入り、6位以内の目標達成はできませんよ。

―既存選手が再び強いエネルギーを発するようになるには、何が必要となるのでしょうか?

『やれば変われる』という感覚を持たせたいし、それを気づかせたい。もちろん、勝つことが何よりの刺激になるとは思います。自分たちがやろうとしていることで結果を出す。それがないと、自信を回復することは難しいでしょう。

―今季の選手構成は若くなりましたが、本山雅志選手に池元友樹選手、川島大地選手に新加入の岡村和哉選手と、経験豊富な選手もいます。

彼らには自分の良さをチームの中にどう落とし込むかを理解してもらうことが大事だと思っています。たとえ、限られた時間の中でも自分の良さを出して行く。でも、全体としてはコレクティブにやっていこうとしているので、そこにもマッチしていってほしい。難しい作業だとは思いますが、彼らはそれができる経験も実績も持っていますからね。

―小林監督は『昇格請負人』と呼ばれていますが、昇格するための秘訣はあるのかと問われて、「特別な薬があるわけではなく、選手ときちんと向き合い、毎日の練習を淡々と積み重ねて行くことで何らかの変化が生まれてくる。今日は何をするべきか。明日のためにどんな準備をするべきかを常に考える」とお話しされていますが、それは選手にも求めますか?

それはそうした方がいいと思いますね。そうすれば毎日が充実してくるはずです。私の話になりますが、高校1年から社会人1年目までサッカー日記をつけていました。続けるうちにサッカー以外のことも書くようにはなったのですが、その日に監督やコーチから言われたことを書いていると、頭の中に自然と残って行くんですよね。そういう中で、社会人になってしばらくレギュラーだったのに、メンバーから外されたことがありました。

―マツダ(サンフレッチェ広島の前身)でプレーしていたころのことですか?

はい、監督はあのハンス・オフト(元日本代表監督)さんでした。私の中でメンバー外になることは受け入れられない事実でした。それでもサッカー日記は続けていたのですが、ふと見直すと、オフト監督からいつも同じことばかりを言われていることに気が付きました。当初は『自分は自分』という考えもあったし、メンバーから外されたから監督の言葉もあまり耳に入ってこなかったのですが、ある時、こういう自分は監督からは「直す気がないヤツだな」と見られているだろうなと思うようになりました。それで、監督から言われてきたことを修正し、また別の何かを言われたらそれも改善するように努力しました。そうしたら半年後にはレギュラーに復帰することができました。振り返れば、一つずつ課題をクリアしていく中で自分が変化していることも自覚できたこと、監督に認められることがとても楽しくなっていきました。

―毎日の少しずつの取り組みで大きな変化や成果を手にすることができる。

そうですね。それで後になって「オフト監督はうまいなぁ」と思ったのは、私が少しずつ良くなっているということを、直接私に言うのではなくコーチを通して伝えたことです。「オフト監督が良くなった、と言ってたぞ」とコーチから聞かされると、本当にうれしくてね、効きましたね。これ、オフト監督の戦略だったとは思うんですよ。

―その手法をいま監督になってから使っているとか?

そうですね、時々(笑)。それは冗談として、何が言いたいかというと、選手自身が何かを変えようと意識して取り組むと確実に変われる、ということなんです。実際に私が北九州に来て練習は今日で9コマ目を終えたところですが、先週土曜日の7対7のゲーム形式の練習をしている時に自分で判断せずにミスをしていた選手が今週初めには積極的な取り組みをしてプレーできるようになっているんですからね。それを見ると、「ああこの選手は変化したな」と思ったのですが、ある意味、恐ろしくすごいことですよ、その変化は。

―その選手に小林監督から何かアドバイスを送ったのですか?

少し話をしたんです。「キミは若いけど自分の判断でプレーすればいいんだよ。周りの選手に言われたことをやるってことは、動きに遅れが出るだけだから。今は素早く動くことが大事なサッカーに変わってきているんだから、自分の判断で素早く動く、プレーすることが大事。もしミスをしたとしたら、自分でまたボールを奪いに行けばいいんだから。君はジャンプ力もあるしバランスも悪くないし、もっとやれるだろ?」と。そしたら見違えるようなプレーをして見せた。そして、私は彼がそこまでドリブルができる選手とは知らなかったのに素晴らしいドリブルも見せてくれてね、本当に良い発見にもなりましたよ。

―それは誰ですか?

いやいや、それはいずれ、いまは秘密に(笑)。

―良い若手を育成するのに大事なことは何ですか?

その選手が練習やトレーニングマッチの中で自分の特徴をうまく表現できるようになった時には、思い切って起用すること。そうすれば必ず伸びます。仮に出場した試合でうまく行かず課題が出たとしても、公式戦に出場して感じた課題に関しては、それ以降のトレーニングで見せる修正意欲がそれ以前と比べて全然違ってきますから。若手選手は特に自分が試合に出られている時は『渇いた状態のスポンジ』みたいな吸収力を持っているんですよね。だから急速に伸びる。

―逆に何か失敗した時、若手選手は自信を失って落ち込みやすいようにも思えますが?

そういうこともあるかもしれませんが、仕方のないこと。でも、そういう選手もすべてができないわけじゃないんですよ。何かができなくてパニックになっているだけなので、その『悪い何か』が具体的に何なのかをきちんと指摘してあげればいいんです。そして、できない何かを指摘すると同時に、できていることもきちんとほめてあげないといけない。そういうところでバランスを取ってあげると、選手も前向きに課題の修正に取り組めると思います。チームに対する「勝っている時こそ厳しく指導して、負けている時にはできていることを示しながら原点に立ち返ってリカバリーに努める」という姿勢と同じですよ。

―小林監督はスポーツダイレクターを兼務することになっています。そういう立場でもあるから、アカデミーとの関係性も大事にしたいという話をされていましたが、もう少し詳しくお願いできますか?

優秀な指導者がいれば優秀な選手が育つ、というのは道理です。だから、アカデミーの指導者の質を上げたいと思っています。昔から北九州という土地には優秀な選手が育つ風土がありました。もし近くに優秀な指導者がいればその下でレベルアップを図りたいと思う子どもや親御さんが増えるでしょう。そうなればアカデミーにおける選手間の競争のレベルも上がって選手の質の向上が図られ、そういう選手が将来的にトップチームに上がって活躍する循環が出来上がれば、クラブが持つ総合力もアップするわけです。

―アカデミーの選手をトップチームの練習に参加させることも考えていますか?

先日、アカデミーのコーチが練習見学に来た際には、公式戦の翌日に行われるトレーニングマッチに何人か出場させるアイディアを出しました。それは単なる人数合わせではなくて、です。そこでミーティングにも参加してもらう。時間は少なくても必ず良い経験になりますからね。私とアカデミーの指導者の間にゼネラルマネジャーとかスポーツダイレクター的な人間がいないから、アカデミーの指導者も私とそういう交渉が直接できるので、事はスムーズに運ぶはずです。

―1月に始動してからの練習を見ていると小林監督のテンションがかなり高いので、長いシーズン、体力的に大丈夫なんだろうかと、少し心配になりますが?

確かに自分でもテンションが高くてヤバいなとは思っていて(笑)。昨日の夜も朝早くに目が覚めて、そこから眠れないから、(マンチェスター・)シティの試合を見て、選手にいずれ見せることも考えて映像の編集をしたりしちゃってね(笑)。

―シティのゲームを見ることが多いのですか? それはなぜですか?

去年あたりからシティを追っている感じですね。ボールを回すところにセオリーがあるし、守備のところでもしっかり戻ってポジションをとる。あれだけうまい選手が揃っているのに、チームの一員としてやらなくちゃいけないことをちゃんとしている。守る時はみんなで守るし、そのために前線の選手もしっかりと後ろに戻ってくる。そういうチームをペップ(グアルディオラ監督)がどんなふうにつくっているのかを想像するのは楽しいし、個々の選手のポジションの取らせ方など、本当に勉強になることが多いから。そういうチームを見ていると、自分の色を出しながらチームのディシプリン(規律)に則ったプレーができる選手が本当に良い選手なんだな、と実感するわけですよ。

―ただし、規律を押し付けると選手は反発するのでは?

そうです、押し付けても規律は成立しません。個人の良さを引き出すための規律だということを理解させなければいけない。それを本当に理解させることに成功すれば、そのチームの規律は少し混乱が生じたくらいでは乱れない強固なものになると思っています。そういう規律をギラヴァンツ北九州でもつくりあげたいですね。

文・島田徹 写真・筒井剛史

(次回シマダノメ『深堀りインタビュー』の第3回目は2月末日ごろにアップ予定。登場するのは? お楽しみに!)

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