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シマダノメ Season7
第6回 深掘りインタビュー
髙橋大悟 選手

『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season7の第6回目は7月にJ1のFC町田ゼルビアからの期限付き移籍で加入した高橋大悟選手の登場です。2019年から21年まで期限付き移籍加入によりギラヴァンツ北九州でプレー、あれから4年ぶりの帰還となった髙橋選手の心の変化について深堀りしてきました(取材日11月5日)。

―2019年から21年までギラヴァンツ北九州でプレーした後、ギラヴァンツ北九州在籍時のレンタル元だった清水エスパルス(22年)、FC町田ゼルビア(23、24年。23年に清水から完全移籍)、大分トリニータ(24年/7月に町田からの期限付き移籍)でプレーした3年で、何か変化がありましたか?

サッカー選手としては『大人』になったかなと思います。『大人』というのは、ただ自分のプレーだけを考えるのではなく、チームのこと試合全体のことも考えながらプレーすることを強く意識し始めたこと。ただ、それが難しい。

―難しい?

チームのこと、試合全体のことに意識が行き過ぎすると『自分』がなくなる。自分の特徴をしっかり表現することはプロ選手として大事で、そこをしながらチームのことや試合の流れを考えて自分が取るべき行動を決めること。そこのバランスを取るのがとても難しくて、まだ満足できるレベルではありません。特にギラヴァンツ北九州でプレーしているからこそ、そこのバランスが難しくなっているように思います。

―ギラヴァンツ北九州とほかのチームで、そのバランス調整の難易度が変わるのですか?

ギラヴァンツは僕にとっては特別なクラブ、チームです。だから、どうしても『自分』よりも『チーム』の方に気持ちが行っちゃう。もちろん僕が毎試合点を取って毎試合勝てれば最高のバランスだけど、なかなかそうもいかない。加入してからここまでは、自分の表現よりもチームのため、つまり勝つために何をすべきか、というところに意識が行っています。2019年から21年までの3年間はもちろんチームの昇格や残留のためにという気持ちはありましたが、バランスとしては『自分』の方への傾きが大きかったと思います。そこは今との大きな違いだと感じます。

―ギラヴァンツ北九州というクラブ、チームへの愛情がそこまで強まったのは、なぜでしょうか?

2019年にJ3で優勝して2020年のJ2でチームが跳ねて、でも21年にJ3に降格。その中で自分だけ個人昇格じゃないけどJ1の清水に戻った。戻るしかなかったとはいえ、そこからギラヴァンツがJ3から上がれないことに僕はずっと責任を感じていました。その責任の重さがギラヴァンツ北九州への気持ちにつながっているんだろうと思います。

―今回、町田からの期限付き移籍でギラヴァンツ北九州に戻ってきたときに「覚悟を持って」という言葉を何度も口にしていました。その『覚悟』についてあらためて聞かせてください。

まずは、自分がJ1からJ3へと二つカテゴリーを落としてプレーすることへの覚悟です。ギラヴァンツ北九州に来て思うような活躍ができなかったらどうしようか、という不安がありました。また、十分な結果は残していないけれども、J1やJ2でもプレーできる自信は持っていたのでJ3でプレーすることに対する自分のプライドとの葛藤もありました。でも、そういう不安やプライドを捨てでももう一度ギラヴァンツ北九州のためにプレーするんだ。そう決断を下す時には大きな覚悟が必要でした。本音ではまだ上のレベルでプレーしたい、プレーしなくてはいけないと思っていたし自信もあったし、だからチャンスもまだあったはず。そういう中ですべてを捨てて来た、という覚悟です。

―プライドについての話がありましたが、ギラヴァンツ北九州で活躍をすればまた髙橋選手の価値は上がりプライドも保てるのでは?

最初に『自分を表現しながら』とは言いましたが、自分の価値を上げるためにプレーしようとは思っていません。例えば2020年はJ2で9得点、21年に10得点を挙げた時に周りの評価を含めて自分の価値が上がることを実感しました。でも、いまは自分の価値を上げることに気持ちは向いていません。それが果たしてプロ選手として正しいかどうかは分かりませんが、腹をくくって来たチームのことをまずは考えたい。自分の価値ではなくクラブ、チームの価値を高めるために自分に何ができるかを考えたいと思っています。この先、どういう状況になるかは分かりませんが、その考えが変わることはないと思います。

―確かに、そうした考えには強い覚悟を感じます。

僕のような考えがすべての人に理解してもらえるとは思っていません。そのことへの覚悟も持って言葉にしています。もちろん、若い選手がそういう考えである必要はないと思います。数字を残して自分の価値を高めてJ2やJ1でのプレーを経験してほしい。それはプロ選手として当たり前の考えでもありますから、どんどんチャレンジしてほしい。そうやっていろいろな経験をしてまたギラヴァンツ北九州に戻ってプレーしてくれるとうれしい。僕自身も上のレベルでやりたいという野望はまだ持っています。ただ、野望を実現するための方法が変わったということです。つまりチームの価値が高まれば自分の価値も高まる。そういう考えですね。僕が点を取らなくても、勝利に貢献することでチームが高みに行ければ、僕も高いところにいける。21年以降の3年間でいろいろな経験をするうちにそういう考えになりました。

―さきほど「この先の状況」という言い方をしましたが、今年だけのことだけを考えての覚悟ではない、ということでしょうか?

僕は今年だけのことを考えているわけではありません。だからこそ腹をくくった、覚悟を決めた。だからこそ二つカテゴリーを落としてでもこのチームに帰って来たんです。19年にギラヴァンツ北九州でプレーした時に『イケさん(池元友樹・現強化部スタッフ)がいれば大丈夫』という声や雰囲気をいろいろな場所で聞き、感じたけれども、僕もそういう存在になれたらいいなと思っています。『この先』とは言いましたが、もちろんいまは今年のJ2昇格に集中しています。

―加入してからここまでの髙橋選手の周囲とのコミュニケーションの取り方に注目していました。まずは増本浩平監督とは頻繁に会話しているようには見えませんでした。

そうですね。なぜなら、ピッチ上のプレーだけで評価される関係でいたかったからです。ピッチの中で良いプレーをする選手、良い結果を残した選手が試合でプレーする、そういう世界であってほしいと思う。ピッチでボールを追いかける一人のサッカー選手として勝負したくて移籍してきたんです。それでダメなら自分に力がないと理解します。

―時期によって、どの選手とコミュニケーションを取るのかが変わっていたように思います。来たばかりの時はシャドーをしてプレーしていた髙橋選手に近い右ウイングバックの山脇樺織選手と話し、その後は加入間もない若手たち、そのあとは高昇辰選手、最近は吉長真優選手といっしょにいる時間が長いように見えます。

僕はJ3の選手もリスペクトしているけど、上のレベルでやれるチャンスを逃してほしくないという気持ちで接しています。自分はJ1とJ2でなかなか結果を残せなかったけど、そうならないために何が必要か、自分なりに思うことを普段の会話で伝えられたらいいなと思いながら接しています。もちろん、僕の話を聞きたいと思っているんだろうなと感じる選手に話しかけています。

―そういう考えを含めて、前回ギラヴァンツ北九州に在籍した時と比べると、本当に大きく変化しましたね。

前の僕はどうでした?

―良い意味で自分中心。自己評価が高くやんちゃ。さっき髙橋選手が言っていたように、プロの若手としては当たり前の姿勢、考え方だったな、と。30歳を過ぎてそういう考え方になる選手は多いように思いますが、髙橋選手はまだ26歳。そういう気持ちになるのが早いというか…。

とにかくギラヴァンツを離れた後の3年で泥水をすすってきました。その中でいろいろな人に助けてもらいました。いろいろな人に迷惑を掛けもした。その中でいろいろと考えさせられたということ。

―苦しい時期が続くと、ネガティブな方に考えが行くこともあるはずなのに、今はそうはなっていない。なぜでしょうか?

サッカーが好きだからだと思います。試合に出られなくてもみんなと練習でサッカーをしている時は楽しかった。一番苦しかった町田での2年間でさえ、そうでした。ボールと仲間がいれば楽しい、だから何とか前を向けたということです。

―高橋選手が加入してからも増本浩平監督が取る戦術が変わりました。分かりやすく言えば、0-1で負けた第26節のFC岐阜戦を境に3バックから4バックシステムに変わりました。そういう変化に何を感じましたか?

負けない戦いから、失点を恐れない攻撃的な戦いへと変わったということだと思いますが、マスさん(増本監督)も腹を括ったんだなと思いました。これをやったから勝てるという保証がない中での決断は本当に難しかっただろうと思います。

―監督が腹を括ることで選手はやりやすくなったのでしょうか?

腹を括って決断したことを変えずに続けてくれたことは少なくとも僕はすごくやりやすい。それで自分がやるべきことも明確になるので、プレーしやすくなります。

―髙橋選手が言う覚悟を増本監督も改めて持ったということなんだと思いますが、『覚悟』って大事なんですね。

男ならね。あ、そうだ、この3年間でよく考えるようになったのは『男らしく生きたい』ということ。今の時代『男らしい』という言葉にはいろいろな意見が出るとは思いますが、それでも男らしく生きたいと強く思うようになりました。自分が無理をしてでも引っ張る、やり続ける、責任を取るという『カッコよさ』が大事だと思うようになりましたね。

―J2昇格プレーオフ出場権を得るために必要なことは何でしょうか?

気持ち。戦術、技術うんぬんではないと思う。残り4試合で6位につけたけれど、精神的にはきついものがあります。油断してもダメだし、その座を守るために圧力を感じて縮こまってもダメ。ただ、強気に出るだけでもダメ。自信を持たなきゃダメだけど、慎重さも必要だし、どんなに追い込まれてもあきらめずに戦い続けることも大事。そういう難しいメンタルバランスを残り試合わずかな厳しい状況の中でうまく取るために必要なのが選手一人ひとりの『成し遂げたい何かに向かう気持ち』じゃないでしょうか。絶対にJ2でプレーしたい、J2に昇格して自分の価値を高めるんだ、家族のために……。思いは異なるけれどもそれぞれの強い思いがどれだけあるかで集団の力のレベルが決まる。それが昇格プレーオフ出場権を得る、また昇格につながる一番のエネルギ―とパワーになると思います。

文・島田徹 写真・筒井剛史