SHIMADANOMEシマダノメ

シマダノメ Season7
第5回 深掘りインタビュー
山脇樺織 選手

『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season7の第5回目は第22節時点でチーム唯一の全試合先発出場の山脇樺織選手の登場です。第21節・宮崎戦と第22節・沼津戦で2試合連続の『1ゴール1アシスト』と数字に残る結果を残すなど、目覚ましい活躍に至る過程や要因について深掘りしてきました。

―今年の山脇選手のプレーを見てきて感じるのは、安定感が出てきた、ということ。それは自分でも感じますか?

まだシーズンも半ばを迎えたところなので自分で評価を下すのは難しいところですが、去年と比べれば心、守備のところは、かなり安定してきた、と感じています。

―安定感が出てきた、と評価されるのはうれしいことですか?

守備に関して言われることはうれしい。でも、攻撃のところを含めての評価だとしたら、安定=大人しいとか、縮こまって積極的にチャレンジしていないというイメージが自分の中にはあるので、素直には喜べない。「まだまだ攻撃的に行けるでしょ?」と言われているようには感じます。

―では守備の安定感について教えてください。

サイドバックは守備者であることに間違いはないので、守備をしっかりとやって、その上で攻撃面でも貢献する。そういう意識が去年までよりも強くなったことは確かです。それは監督やコーチングスタッフからの要求であり、それをプレシーズンのキャンプから、また開幕してからここまでの間で常に意識しています。

―その守備意識の高さについてはデータにも表れているようです。タックル総数は「45」でチームトップ、ブロック総数「72」はリーグで4位、チームでトップ。デュエル勝利総数「50」はチームトップ。

J3は公式データとしての走行距離やスプリント回数は出ていないのですが、僕はそれがチームトップだということはチーム内で共有されるデータとして認識していました。今の3つのデータに関しては知らなくて、それは出場試合数が多いからの数値だとしても、うれしいですね。

―見た目でも、1対1で抜かれない、背後のスペースを取られないというところは感じていましたが、実際にそういうところはデータとして出ているんですね。

僕自身の中で今季は組織的な守備力向上も大きなテーマに掲げて臨んでいるのですが、それをする上でまずは自分のところで相手に自由にやらせないという個人戦術の向上も意識して取り組んできました。それは日々の練習でのトライ・アンド・エラーによって向上したところでもあります。例えばフウト(吉原楓人選手)には1対1で抜かれることもあるわけです。でも二度目はやらせない。そういうことを繰り返してきました。

―守備技術の向上は去年と比べると飛躍的に向上したように映ります。その理由に心当たりは?

一つ明確な理由があります。去年の第27節・FC今治戦(0-3敗戦)、第28節・大宮アルディージャ戦(0-3敗戦)、第37節・AC長野パルセイロ戦(1-1引き分け)で、僕の守備でのミスから失点して勝点を落とし、自分の中で強く反省することになりました。僕のせいで負けた、勝てなかった、ということが二度と起こらないように、そんな経験を二度としないように、それによって今季は何としてもJ2に昇格しようという強い思いで今シーズンをスタートさせました。その気持ちはいまも継続していますし、そういう気持ちの部分が守備力向上の大きな要因になっているんじゃないかと思っています。

―反骨心も大きなエネルギーに。

今季開幕前のマスさん(増本浩平監督)の言葉も大きかった。開幕1週間前にマスさんから「カオルは去年と変わってない。特に守備に関してね。オレがこれを言うのは最後だと思うよ」と。今年は変わろうとの思いを持って開幕までの準備はしてきたつもりでしたが、守備に関しては、去年自分がやらかしたこともあって、ものすごく慎重にプレーするようになっていました。それがマスさんの眼には自信のないプレーに映っていたということ。実際、僕も自信を持てないままプレーをしていたし、そのことをマスさんに正直に話しました。

―増本監督はどういう反応を?

「カオル、それは違うよ。自信を持っていい。去年のプレーに関して言えば、もちろん守備を含めて改善しなければいけない点はあるけれど、自信を持ってプレーするカオルを見て、もっとチームを引っ張っていける選手になるだろうと感じていたし、ポテンシャルは間違いなく高い。去年のプレーオフ進出という目標ではなく優勝・昇格というより高い目標を掲げた今季、それを達成するためにはカオルの力は絶対に必要なんだ」と言ってもらえたんです。それに加えて、現状での僕の課題と強みを整理して分かりやすく言葉にしてくれました。

―その言葉はうれしかったでしょう?

今年はやってやるという気持ちをもって準備しながら、でも特に守備の所でなかなかうまくいかない状況に精神的にもかなり追い込まれていた僕はマスさんの言葉に感極まって泣いてしまいました。あの言葉に自分への信頼を感じましたし、それにしっかり応えなければ、という気持ちも湧き上がってきて前向きな姿勢でプレーすることができるようになりました。

―山脇選手の心のエネルギーになった、と。

はい、守備力向上に向けた現実的な課題に向き合う勇気と姿勢、客観的で冷静な自己分析をもたらすエネルギーになったと思います。個人の守備戦術を再確認し、改善する。また隣にいるセンターバックとの連携を高めるためにどうしたらよいのかを考え、それを実践するためのコミュニケーションを頻繁に取る。例えばコウジ君(杉山耕二選手)には独自の特徴があり、それを生かすためには自分はこういう動きをした方がいいんだ、といふうに、自分のプレーだけではなく、グループとしての守備力をどうやって向上したらいいのか、そういうところまで意識するようになりました。

―今季開幕前に個人的なテーマは何かと聞いた時の答えが「判断を早くする」でしたね。

去年のシーズンが終わった後にマスさんに「自分を変えるためにオフシーズンに何をすればいいと思いますか」と聞きました。すると「この1カ月で技術力は大きくは向上しないだろう。でも判断のスピードは上げられるんじゃないか。だから、例えば今日の晩御飯に何を食べるかの決断からスピードアップするように努めたらどうか。日常における判断スピードはサッカーにも通じるはずだから」と。

―それは効果があったと思いますか?

あったと思います。あとは監督のアドバイスから自分なりにメンタルも変えてみようと、あるトライをしています。試合前のロッカールームで自分の感情、今日の試合にどういう気持ちで臨むのか、あるいは守備で今回意識すること、攻撃では何をしたいか、何をするべきなのか、そういう考えを整理してメモに残す。これは『ジャーナリング』というらしいのですが、自分の思考や感情を掘り下げて、それを日記のように書くことで、自分の考えを整理する。それで迷わず行動に移せるようになる。日本代表の森保一監督がベンチで手にしているくらいの小さいメモ用紙で1ページ半くらいの言葉を毎試合書いています。

―プレーの、特に守備の安定感には多くの要素がからんでいたんですね?

ほかにも、今年から一人暮らしを始めたので栄養士をつけて食事を意識するとか、日々の生活の中で自分に目を向ける場面が増えました。それは日常の充実につながり、意識して『充実』をつくりだすことで自信も生まれる。それがプレーにも表れているのかもしれません。

―栄養士さんからのアドバイスはどういう形で?

主にLINEです。しかも、これを食べなさいという栄養士さん主導のアドバイスではなく、その日の僕のコンディション、疲労度のやりとりから、その都度、僕に合ったアドバイスをいただいています。

―最近はクラブハウスでのランチ後の『山脇カフェ』を目にすることがなくなりました。

最近は弁当ではなく、チームがお世話になっている食堂でランチするようになったので、僕がコーヒーを入れて仲間に提供することがなくなりました。タクさん(牛之濱拓選手)はとても寂しがってくれていますけど。

―そもそもコーヒーをなぜ仲間に提供しようと?

コーヒーを飲む時間が落ち着けるので。そして仲間とコミュニケーションを取る良い機会になると思ったので。

―と言いながら、山脇選手は仲間のためにコーヒーをいれることに一生懸命であまり会話に入っていなかったように思いますが?

コミュニケーションの場を提供することである程度、満足できるんです。仲間がそうやって関係性を築いていくのを見るのが楽しい。

―読書も趣味の一つですよね?

そうですね、コーヒーとのセットで気持ちを落ち着かせてくれる、僕にとっての大事なツール。栄養とかメンタル強化のための情報を得るために本を読むこともありますが、楽しめるのは小説を読むとき。僕の母がいまでも東京・代官山の書店で本のコンシェルジェをやっていて、その母からもらった本、すすめてもらった本を中心に読んでいます。

―読書好きはお母さんの影響ですね。

間違いなく。

―最近読んでおススメの本は?

阿部暁子さんが書いた『カフネ』。最近、おススメされた本です。まだ読み始めたばかりです。2025年の『本屋大賞』受賞作なので、読み進めるのが楽しみです。

―自分以外の選手のプレーは見ますか?

以前は海外チームの試合をよく見ていましたが、最近はJ1の試合を見ることが多くなりました。身近に感じられるレベルを参考にしようと。最近はJリーグから海外移籍するサイドバックも多いですからね。そこで見るのは、やはり僕と同じ4バックシステムのサイドバックや3バックのウイングバックの選手で、ボールの持ち方、プレー判断について注目して見ます。

―特に気になる選手は?

海外チームからFC東京に戻ってきた室屋成選手。守備もできて積極的かつ力強い攻撃参加もする選手なので。僕のプレーモデルとなり得る選手です。僕も小学3年生の時にFC東京の夏のアドバンスチーム(スクールの中のスペシャルクラス)に選ばれたことがあったので、FC東京は以前から注目しているチームです。

―では攻撃面でのパフォーマンスについて。クロス総数「94」は2位・樺山諒乃介選手の「27」を大きく超えてのチームトップ。ドリブル総数はチームトップの樺山選手「41」に次ぎ「28」で2位。チャンスクリエイト総数はチームトップの岡野凜平選手の「28」に次ぐ「23」でこれもチーム2位となっています。

アシストはまだ二つ(第21節・テゲバジャーロ宮崎戦と第22節・アスルクラロ沼津戦で一つずつ追加して計4アシストに)なので、満足はできません。クロス数が多くても得点につながらないと意味はないので。ただ、第16節・沼津戦でのタクさんへのアシストはかなりの自信になったので、ここからもっと数字として残していきたい。ドリブルももっと仕掛けたい。取られても何度も仕掛けられると相手は嫌だと思うので、何度も何度も。そこが僕には足りない。失敗しても何度もチャレンジする強いメンタルを持ちたい。

―去年よりも1対1の場面でドリブルを仕掛けて抜くことができる確率が上がったような印象があるのですが、どうでしょうか。

試合中の余裕、積極性は去年よりも増したと思っています。去年は、取られるかもしれないな、と失敗した時のことを考えて仕掛けることを躊躇することがありましたが、今年は失敗してもまたチャレンジしようという意識を持つようにしているので、思い切って仕掛けることができている。それが成功の確率を上げているのかもしれません。さっきは相手がこうしてきたから今度はこういうタイミングで仕掛けてみよう。失敗を次の成功に生かそうとするトライもできていると思います。ただ、まだ不十分。

―サイドの突破において、より自分のスピードを生かす工夫もしていますか?

走り出すタイミングという部分では手ごたえをつかめてきましたが、自分がボールを受けてからもう一度スピードを上げるということに関しては、まだまだ工夫が必要だし、上のレベルに行くためには身につける必要があると感じています。

―カットインからのシュートもあれば相手は嫌でしょうね。

そうですね。そういう選択肢を見せておくことで縦へ突破する時のスピード発揮にプラスに働くかもしれません。まだやれることはたくさんあると思います。

―クロスの質について。

高いボールを入れるだけでなく、速いグラウンダーのクロスを入れるなど、使い分けを意識していますが、質は不十分です。そこも、まだまだ。

―スプリント回数は平均してどの程度ですか?

チームとしてGPSを使用して計測するので言うと、20本に届かないレベル。12、13本を越えればチームではトップクラスにはなりますが、個人的には20本を超えることを目標にしています。夏になるとそこは少し減っているので、なるべく落とさないように。

―走行距離は?

11.5キロくらいですかね。

―昔からスピードと持久力には自信がありましたか?

足は速いほうではありましたが、高校まではもっと速い選手がほかにいたのでそれほど目立ちませんでした。同志社大に入ってからは少し速さが増したように感じます。持久力は中学の時に3000メートル走の区の記録会で3位になりましたから昔から自信がありました。

―今季ここまでリーグ戦でチーム唯一の全試合先発。全試合で先発することで学ぶことはありますか?

守備から入ることを一番に考えています。守備者として相手に絶対にやらせないという気持ちで。守備をしっかり表現することで僕のプレーリズムは上がるし、当然、チームとして安定した試合運びをすることができるから。

―例えば、全試合先発することがどれだけ大変なことかも分かる、ということは?

1年目は確か全体で400分くらい(リーグ戦で389分)しか試合に出ていなくて、去年は2000分くらい(2024分)。そこを踏まえて増本監督から言われたのは、1年目でそんなに試合に出ていない選手が翌年に20試合以上先発したらシーズン最後にガス欠になるのは当然だろう、と。確かに去年のシーズン終盤はパフォーマンスが落ちましたから出続けることの難しさを感じました。

―去年の経験を踏まえて今年は?

今年は1週間の自分の生活も含めて安定したスケジュールを組める状況にあるので、試合に向けた良い準備を逆算してできるようになった。正直、去年は年間を通して試合に出続けることは体力的、精神的にもしんどいと感じていましたが、今年はそういうことへの不安もなく試合に臨むことができています。日々のケア、食事、睡眠など良い準備がどれほど重要なのかを去年と今年で実感しているところです。

―加入1年目の時の練習を見ていると、周囲の選手からかなり厳しい言葉を受けていましたし、そのことに反発する山脇選手を何度も見ました。そのことについて聞くと「昔から周りから厳しいことを言われがちだった」と答えてくれました。加入3年目のいまはその状況に変化はありますか?

3年目になって「カオルはこういう人間だよね」と受け入れてくれる仲間が増えたことも影響していると思いますが、そういう状況になることは減っていると思います。去年までは周囲に自分が合わせようとする意識が強かったことで周囲からの厳しい言葉を誘っていたのかなと。特に1年目は『とがっていた』ので、キャプテンとも言い合いをしたりもしていました。

―それが今年は?

今年は周囲に合わせることも意識するけれども、自分のメンタルを含めたコンディションに合わせて対応するようになった。言い方を変えると、自分の間合いで過ごすようになったから周囲からの反発を招きにくくなったというか。今考えると、去年までは感情のままに言葉を発するなど、良いコミュニケーションではなかったなと思います。今年は、どうすればチームとして良くなるか、という視点での建設的な議論が多くなっているように感じます。そのせいか、監督、コーチはもちろん、先輩だけではなく後輩からも良い関係性の中で良いアドバイスをもらえるようになりました。

―高吉正真選手とは今年も練習中に言い合いをしている場面を何度か見たことがありますが、あれは仲が良いことの裏返しでしょうか?

ショウマは表立って仲が良いと言うことを恥ずかしがるタイプなので否定するかもしれませんが、正直、仲は良い。オフに一緒の時間を過ごすことも多いですし、互いに変なタイミングで電話をかけあう『ヒマ電』はよくしますね。

―今季で加入3年目の選手は山脇選手のほかにFC大阪に移籍した坂本翔選手、高吉選手、岡野選手、高昇辰選手の4人がいます。今年まで同じ経験してきた仲間は、やはり今年にかける思いも同じなのでしょうか?

1年目は自分の仕事をしなくても誰かが点を取って勝利に導いてくれる、誰かが守ってくれるから無失点で終えられる。だから自分は自分のプレーだけに集中すればいいと思っていました。去年の終盤と今年は自分のプレーが勝敗に直結するということ、例えば自分の1本のクロスで得点が生まれて勝利につながる、自分の1本のシュートブロックが無失点につながるということを強く自覚する立場になったし、去年までの経験でそう思うようになった。それはつまり『責任感』と表現できるモノで、それが3年目の今年、とても強くなりました。そのことをほかの4人と直接言葉をかわして確認したことはありませんが、おそらくみんな同じ気持ちだと思います。

―シーズンも後半戦に向かう中で思うことは? やるべきことは?

ここから全部勝つ。その気持ちしかありません。最後にどうなっているかよりも目の前の試合にどうやって勝つのか、目の前の相手をどうやって倒すのかだけを考え、一つずつ、全部勝っていく。そういうふうに全選手が思えるように増本監督が導いてくれていますから、そこにすべての力を向けていく。それしか考えていません。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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