SHIMADANOMEシマダノメ

シマダノメ Season4
第7回 深掘りインタビュー
永野雄大 選手

『シマダノメ 深掘りインタビュー』Season4の7回目、2022シーズンの最後を飾るのはプロ3年目の今季において強い個性と存在感をピッチ上で発揮した永野雄大選手の登場です。輝きを放つに至った過程を深掘りしながら、天野賢一監督と戦った今季をレビューしてもらいました(取材日/11月16日)。

―振り返ってみると永野選手の今季の出場試合数は19試合と、意外に少なかったんだな、という印象です。

そうですね、最初の方は出番がないベンチスタートが多かったですし、7月と8月はケガで離脱していましたから。自分の中でも今季はあまり試合に出ることができなかったという印象があります。やっぱり負傷離脱は大きかったですね。

―しかし、ケガ明けのプレーがすごかった。永野選手らしさが、過去の2シーズンと比較しても一番表現できたんじゃないかと思っているのですが、ご自身ではどのように感じていますか?

出場試合数としては少ないと思いますが、それでも自分のプレーを出せたとは思っています。

―プロ3年目にして自分のプレーを十分に出すことができた理由は何でしょうか?

一つは、ギラヴァンツ北九州の一員となって3年目ということで、生き残っていくために死に物狂いでやらないといけないという覚悟を持ったことだと思います。それと3年目でチーム内での自分の立ち位置も変わったので、チームを引っ張っていくこと、リーダーシップも取って行こうと考えたことも影響したのかもしれません。

―確かに河野貴志選手と田中悠也選手の4年目というのが、今季メンバーの中で最長の在籍年数ですから、3年目となると、そういう自覚も出てくるのでしょう。

1年目はやはりプロの世界のことも分からない中でいろいろな人にいろいろなことを任せて、ただサッカーをしているという状況でした。でも去年からは、それでは生き残ってはいけないし、自分自身を変えなきゃ、もっとやらなきゃ、と思うようになっていました。ただ去年はそこのところをうまく表現できなかった。それで今年はもっと強い思いとしてそれを自分の中で意識して、少しはプレーとして表現できたんじゃないか、と。

―今季、天野監督が指揮を執ったということも永野選手の覚醒に関係しているのでしょうか?

それも大きいと思います。フォーメーションのところで、去年までのシンジさん(小林伸二SD)の時と比べるとプレーポジションが変わって自分の良さを出しやすくなったと思います。

―そのボランチの立ち位置の変化について、もう少し詳しく教えてください。

シンジさんの時は、2人のセンターバックの位置にまでボランチの一人が下がってビルドアップに加わることが多かったのですが、アマ(天野監督)さんのスタイルは、ビルドアップ時に最終ラインが3人になるというところは変わらないのですが、その3人は2人のセンターバックとサイドバックというのが基本。そしてボランチ二人のうち一人がその最終ラインの前に位置して、もう一人はサイドハーフと同じくらいの位置にポジションを取ってボールを前進させるようになりました。

―それで永野選手は高い位置を取る方のボランチ役としてプレーするようになった、と?

そうです。シンジさんの時は最終ラインに降りての配球力を求められましたが、アマさんになってからのポジションは相手ゴールにより近い位置、そこにあるスペースは狭いのですが、僕はそこでボールを受けて攻撃に変化を加えて行くプレーの方が得意なんです。それでも初めのころはうまく噛み合わなかったのですが、プレー時間が増えるごとに他の選手との連係も高まり、リーグ戦が進むにつれて自分らしさを出せるようになったと思います。

―そういうところを含めて、今季は永野選手自身にとっては良いシーズンになったと言えるのでしょうか?

そうですね。6月、それからケガから復帰した9月からは連続して試合にでることができました。去年とおととしは数試合でケガをする、あるいは疲れてプレーの精度が落ちて連続して出場することができなかったので、今年はそこにおいての充実感はあります。ただ、それをリョウ(佐藤亮選手)のようにシーズン通してできなかったことは悔しいですし、来季の個人的な課題にしたいと思っています。

―第33節のカターレ富山戦(1-2で敗戦)は途中出場でしたが、チームに推進力をもたらすプレーが印象的でした。

そのあたりの試合では、相手にボールを持たれてチームとして後ろに下がった時に失点につながっていました。だから自分が入ったら真ん中でボールを受けて、パスもいいんだけれども自分がドリブルでボールを前進させる、そういうイメージを持って試合に入って、何度かそういうプレーを出せたと思います。スペースがない中でボールを受けて前進するというのは取られてカウンターを食らうという怖さもあるのですが、自分がそこで勇気を持ってそういうプレーをすれば、前には良い選手が揃っているので好機につながる可能性も出てくる。リスクを恐れるか、可能性に懸けるか、そういうところで前向きな選択ができるようになったことが自分自身でもうれしいし、それが自信にもなりました。

―リーグ終盤になってチームとしての得点力が上がりました。特に天野監督が言う『ペナ角(ペナルティーエリアの角)のスペース』をうまく取れたことで多くのチャンスをつくった印象です。『ペナ角』を取るためには何が大事なのでしょうか?

う~ん、いろいろとあると思うんですけど……、大きく言ってしまえば連係の力。相手もそこを取られないように警戒してくる中で、どういうふうなボールの動かし方をすれば、あるいはどういうふうな動きでスペースをつくり利用すればいいのかをグループとして考える。そのグループとしての考えがまとまった時にはうまく『ペナ角』が取れるんです。

―細かいところで言うと?

個人的には『ペナ角』を取るためにそこに動き出すタイミングだと思います。フォワードの選手もそうですが、僕やミツさん(六平光成選手)もよくそういうスペースに飛び出すことを意識していましたが、その時、どのタイミングでスペースに向かって走り出すかというところはすごく大事だと思います。

―確かに永野選手や六平選手がフォワードを追い越してスペースでボールを受ける場面を数多く見ました。

例えば僕が『ペナ角』に向かって走り出すタイミングで言うと、リョウにボールが入った時、一旦リョウに近づくような動きを見せておいて一気に前にスプリントする、とか。その時にはリョウが僕にパスを出せる状態にあるのかを見極めないといけないし、良いタイミングで走り出さないとリョウがパスを出せるタイミングと合わない可能性も出てきます。タイミング、それから動きの緩急が大事。僕は足が速くない分、余計にそこが大事になってきます。

―第31節のカマタマーレ讃岐戦(2-2の引き分け)での上形洋介選手の先制ゴールをアシストした時も、『ペナ角』ではありませんが、相手陣内にあるスペースに飛び出してボールを受けてからのものでした。

あの時は、キーパーまでボールが下がった時に、タイガ君(前川大河選手)が後方に落ちてくれていたので自分は高い位置のポジションにとどまっていて、ソウ(藤谷壮選手)にボールが入った時にスペースに飛び出したらフリーでボールを受けることができました。

―ボールを前進させる時に、すべてのプレーが前向きでなければならないわけではなくて、『タメ』と言われるものが必要になります。

『タメ』をつくるのも僕の仕事の一つです。

―『タメ』というのはボールを保持して味方がスペースに走るため、あるいは味方が相手のマークを外すための『時間をつくる』ことだと思いますが、チームとしてはスピーディーにボールを前進させた方が相手も対応しづらいので良いわけですよね。時間を掛けずに、時間をつくる。それって難しくありませんか?

時間をつくるためには、長くボールをキープするというイメージがあるかもしれませんが、僕の中では違います。例えば自分がボールを受けた時に一歩二歩、前にボールを運ぶだけで相手も構えるので少しの時間をつくることができます。僕の中では『タメをつくる』というのは『ちょっとした時間をつくる』というイメージです。

―スピーディーさが求められる現代サッカーにおける『タメ』というのは昔とは違って『ちょっとした時間をつくる』ことなんでしょうね。少しの時間をつくるために、今話したボールを一歩二歩前に運ぶこと以外の手段は?

ボールを運ぶことはアマさんにも言われていたことですが、それ以外に、ボールの置き所についても言われてきました。自分がボールを受けた時の一つ目のトラップで、どこにでもボールを蹴ることができる所に置くことができれば、ちょっとした時間をつくることができる、と。どこにでも蹴ることができるということは選択肢が多いということ。パスを出してもいいし、出さなくてもいい。

―自分のタイミングでプレーをするということは相手を自分の支配下に置くということ。

自分主導のプレーが時間を生む、つくるということなんだと思います。

―讃岐戦の上形選手へのアシストがプロになっての公式戦での初アシストですか?

そうです。

―もっと喜んで良かったのでは? ものすごいコースのパスでしたし。

確かにもっと喜んでおけばよかったと思います(笑)。

―今季終盤になってミドルシュートへの積極性も目につきました。

単純にゴールが欲しいな、と。そのために練習もしていたので。ただ決めることができないのはまだ練習が足りないということ。もっと練習を、と思っています。

―ギラヴァンツ北九州のアカデミー育ちであることを意識することはありますか?

アカデミー出身者だから、というわけではありませんが、中学生の時からお世話になっているクラブでもう一度J2に昇格したいですし、それだけではなくJ1にも上がりたいという思いはあります。

―2021年から池元友樹さんが着けていた「11番」を背負っています。

僕はずっとイケさんを見てきたので、ほかの選手が11番のユニホームを着るのは違うし嫌だなと思って、自分で「11番」を希望しました。

―池元さんが現役を退いてから二人の関係性は変わりましたか?

変わっていないと思います。現役の時と同じく今もいろいろなアドバイスをいただいていますし。

―いまは話す時に緊張することもないのでしょうか?

1年目はめちゃくちゃ緊張して話すのが怖かったのですが、今は慣れたと言ったら怒られますが、尊敬する心は変わらず、少し距離近く接することができるようになりました。

―今季の天野監督のサッカーをどう感じていましたか?

個人的な特徴が出せるスタイルだったことも大きく関係していると思いますが、ものすごく良いサッカー、良いスタイルだと思います。勝てなかったことで監督の取ったスタイルややり方が悪かった、となりがちですが、でもプレーしているのは選手です。だから、天野監督のやり方やスタイルそのものを否定的にとらわれるのがものすごく嫌でした。

―魅力的なスタイルを追求しながら、でも勝点を思うように重ねられなかった理由は何だと思いますか?

難しい質問です。恐らくは失点の多さがみなさん気になる点だと思います。その点で言うなら、前プレ(前線からプレッシング)が今季はよく効いたと思いますが、それを90分持続することは難しいので、行けない時の守り方の意思統一というものがしっかり取れなかったという反省は個人的にはあります。前から行けないから自陣に引いて守るという選択肢もありますが、実際に失点した場面を振り返ると引いて守っている時が多いんです。

―そもそも天野監督のスタイルにおける守備は引いて守る形ではない。

前から行く、後ろで守る、その中間の守備ができれば良かったのかもしれません。

―とは言え、天野監督が目指したスタイルは守備の視点で見て評価するべきものではないように思います。

そうですよね、攻撃を主体として考えるスタイルなので、そういう視点で立つと「3点目」をなかなか取れなかったことが勝点を積み上げられなかった一番の理由だと考えるべきかもしれません。

―第29節の愛媛FC戦(1-1の引き分け)のあと、第30節の鳥取戦(2-3の敗戦)、第31節の讃岐戦(2-2の引き分け)と2試合連続で、2点をリードしながら勝利を逃した。その反省をどう生かすのかが注目された第32節のSC相模原戦は前半だけで3ゴールを奪って勝利を収めた。それが天野スタイルの答えなんだと感じたのですが?

そういう戦いがアマさんの考えるスタイルだったと思います。

―自身の中での今季のベストゲームはありますか?

満足できたゲームはありません。

―では個人的に最も悔しかったゲームは?

ホームでの鹿児島ユナイテッドFC戦(第15節、1-2の敗戦)ですね。内容がものすごく良かったのに終盤の失点で逆転負けしてしまったこと、それから僕はあのゲームでケガ(左膝内側側副靱帯損傷)をしてしまったので。

―第30節のガイナーレ鳥取戦後の本当に悔しそうな表情も印象に残っています。

2点を早々にリードしながら3点を奪われて負ける試合なんてそうそうないので本当に悔しかった。あまり感情を表に出すタイプではないのですが、あの試合は悔しさがこみ上げてきました。

―先に話していたチームを引っ張っていく自覚というのもそういう悔しさ、感情表現につながっているのでは?

確かに、そのへんの変化は自分でも感じているところです。僕が1年目に入って来た2020年はJ2で5位。そういう素晴らしい成績を残せたのは試合に出ていた選手たちの頑張りがあったからこそで、なのに今自分たちはJ3にいて、鳥取戦ではああいう負け方をしてしまって、頑張ってくれた先輩とか選手に申し訳ないし、そういう戦いをしてしまったことがものすごく嫌で、悔しかった。

―今季はボランチとして、西村恭史選手、針谷岳晃選手、六平選手とコンビを組みました。

3人ともうまいので、誰と組んでもやりやすかった。ヤス(西村選手)はどっしりと構えてくれるから、僕がプレスや攻撃で前に行く時はいっさい躊躇する必要がありませんでした。ミツ君(六平選手)と組む時は僕がアンカーとして最終ラインの前にいる感じになりますが、とても気が効く選手なので、僕を含めて周囲がプレーしやすい環境をつくってくれました。タケ(針谷選手)は前に縦パスを刺せるから、僕が後ろに引く必要もなく任せられる、だから自分が高い位置でプレーできるというやりやすさがありましたし、誰と組んでも楽しかったです。

―最初に話が出ましたが、佐藤亮選手とはかなり仲が良いようですね。

ギラヴァンツ北九州に同期で加入した選手の一人ですし、3年目の僕らがチームを引っ張っていかなければいけないというところで考えも一致しているので。

―性格は異なるように見えます。

真逆というか…、アイツはまじめな好青年。それが周囲の人がリョウに対して持っているイメージでしょ? 本当はちょっと違うんですけどね(笑)、まあまあそんな感じで。でも僕は感情をあまり表に出さないし、いつもふざけている感じで。僕がボケであいつがツッコミ、ですね。

―来季に向けての個人的な目標は何でしょうか?

今季の最初はベンチからのスタートだったので、シーズンの最初から試合に出ること。監督が代わって競争が激しくなって大変だとは思いますが、先発の座をシーズン通してキープすること。それから今季は1アシストに終わっているので、アシスト数を増やしたいし、得点も含めて数字に表れる結果を残すこと。それから今年も意識してきたハードワークのところ、チームを引っ張っていくところは継続したいと思っています。

―チームを引っ張るという点において進歩させたい点があれば教えてください。

試合や練習でのプレー中の声掛けはかなりできたと思うのですが、例えば練習中、プレーしていない時のコミュニケーションや行動が十分なものかというと、まだまだだとの自覚があるのでそこもしっかりやっていきたい。すでに始めていますが、ウォーミングアップの時のランニングで先頭を走るとか、そういうところから地道にやってJ2昇格に向かってチームを引っ張っていきたいと思います。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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