SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第12回
長谷川光基 選手

増本浩平監督の長谷川選手に対する印象を聞いた時の答えはサッカー選手へのモノとは思えない表現でした。

「あいつはチャラい!」

確かに明るく場の空気を盛り上げようとする“お調子者”との印象をサポーターの方々もお持ちでしょう。もちろん、増本監督の言葉はそういうムードメーカーとしての振る舞いを指してはいますが、それだけではありません。

「チャラいという言い方をすると悪い意味にとらえられることが多いですが、ハセの場合はそうではない。そのチャラさが良い面に出ることが多い稀なタイプの選手だと思う」

「例えば、出番がなかなか訪れなくても、ネガティブな方向に感情が動かず、次の出場機会に向けて淡々と準備をする。気持ちの切り替えが早くてうまい。」

今季、長谷川選手が初先発を果たしたのは開幕から10試合目、4月26日の第1節・松本山雅FC戦でした。そして続く第11節・杤木SC戦でも先発を果たしました。

先発まで時間を要したシーズン序盤を長谷川選手はこう振り返ります。

「毎年自分の中では『これが最後の年になるかもしれないから悔いがないように』という気持ちでシーズンに入ります」

「でもシーズン序盤でなかなか出番がありませんでした。もちろん、悔しいですが、最初から先発が続いていたら、僕はお調子者なので、よくないシーズンになっていたかもしれません」

チャラいという独特な言葉で長谷川選手を表現した増本監督は「ハセのすごいところはいざ起用するとちゃんと結果を残すこと」と言い、「それは良い準備をしているからだ」と続けます。

試合に出ることができない時の振る舞いについて長谷川選手は次のように解説します。

「もちろん、試合に出られない時期には自分の中で気持ちのベクトルがいろいろな方に向かいそうになりますが、大学時代に同じような経験をしていることが生きていると思います」

「出られない時こそ大事。そこで自分に足りないことを見つめ直し、知り、改善するための時間になるから」

そう考える長谷川選手が実際に2月終わりの開幕から4月終わりの初の先発出場までの約2カ月間をどう過ごしたのでしょうか。

「杉山耕二、辻岡佑真、東廉太とセンターバックのポジションを争う選手はみんなヘディングが強く、対人プレーを武器にしています」

「そこは自分としては強みにできるほどの十分なレベルにはなく最低限はできるようにならないと思っていたので、ヘディングの練習に時間は割きました」

「対人プレーは自主練でなかなか身につけることができないモノなので、全体練習の中で意識することでレベルアップを図ろうと考えました」

空中戦と対人プレーだけではなく、自分の強みにも磨きを掛けたと言います。

「自分の武器だと思っているビルドアップや足元の技術をもっと伸ばしていこうと思って全体練習の中で意識していましたし、自主練でも時間を取りました」

攻撃に向けた配球は長谷川選手がもともと持っていたストロングポイントであり、増本監督も「勇気がいる鋭い縦パスを刺すことができる」と高く評価しています。

そうした絶妙な前線への縦パスについて長谷川選手はこう言います。

「昔から僕の周りの選手はうまかったので、ぎりぎりのところにボールをつけても失わない、という感覚を持ってプレーしていました。いまもそういう感覚をベースにプレーできているんだと思います」

「あとは、意外性というか、相手が読みづらいタイミング、コースへの配球も意識しています。もちろん、そのパスが通らずピンチになる可能性も考えながらプレーしなくてはいけないんですけどね」

「でも『安全』に意識が行きすぎた時は、自分らしくないプレーになっていると思いますから、そこの勇気は大切にし続けています」

出番がなかなか訪れても腐らず次のチャンスに向けてしっかりと自分を高めることと、自分らしさを失わないように、それを表現するために勇気を持ち続けること。そうした『変わらないところ』が今季の成長の要因の一つと言えそうです。

では、今季の長谷川選手が『変わったところ』とは何でしょうか。

「マスさん(増本監督)から『出場の順番が回ってきたときにしっかりプレーをすればいい、という納得の仕方をしてるんじゃないの?』と言われました」

「第16節の沼津戦で5試合ぶりに先発して勝ったのに、次の高知戦から3試合連続でメンバー外になったことがどうしても納得できなくて監督に理由を聞きに行きました」

「そういう行動に出たのはプロになってから初めて」と言う長谷川選手は悔しい気持ちになったそうです。

長谷川選手は「でも腐るのではなく、見返してやろうという思いで練習に取り組みました」と振り返っています。

試合出場への意欲を素直に言葉やプレーで示した長谷川選手は第20節から7試合連続で先発。累積警告で出場停止の辻岡選手の代わりに先発した第34節のヴァンラーレ八戸戦で勝利に貢献しました。

今年26歳となりチームの中堅となった長谷川選手はチーム内の立ち位置も意識して自らの振る舞いを変えたと言います。

「プロ入り後しばらくは、ふざけて場を盛り上げればいいや、と考えてきましたが、今年はただふざけるのではなく、締めるところは締めなければいけないと思うようになりました」

「例えばレンタ(東選手)は元気いっぱいなところが良いですが、疲れてくると少し声が出なくなったりするから、そのときはこちらから声掛けして励まします」

「鼓舞するような声掛けというよりもそれぞれの選手の特徴を引き出すようなアプローチの仕方を考えています」

「そうやって人に何かを言うということで自分のプレーへの責任感が増すことも自覚し始めた、というところも今までにない変化かもしれません」

「でも、その責任感から『ミスをしちゃダメ』だという意識が強くなり過ぎると、僕の個性も死んじゃうと思うので、そこのバランスをうまく取りながら、ですね」

もう順番を待つだけじゃない。自らアクションを起こす欲を持った今季の長谷川選手はとてもたくましく見えます。残りわずかとなったシーズンのさらなる活躍に期待します。

[取材・構成:島田 徹]