SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ
新門司キニナリーニョ 第5回
高柳郁弥 選手

第3節・FC岐阜戦から第6節の鹿児島ユナイテッドFC戦まで連続フル出場を果たした今季加入の高柳郁弥選手。[4-2-3-1]システムではダブルボランチの一人として、[4-1-4-1]システムではインサイドハーフの一人として攻守で効果的なプレーを披露。特にポジショニングや配球面には知性を感じます。高柳郁弥とはどういうサッカー観を持つ選手なのかキニナリーニョしてきました。
守備では頭をよく振って危ないスペースを察知して素早くそこに動く。攻撃に転じた際は、ビルドアップをスムーズにするために、また頭を振ってボールホルダーのパスコースをつくるために動く。
そうした的確なポジショニングや、相手を誘導するような身体の向きやスピードの緩急の作り方を見て「頭がいいな」あるいは「巧いな」と感じる方はきっと多いでしょう。そういうプレーは意識的なモノなのでしょうか。
「僕は身体が大きくないし、足も速くない。だからプロになる前から、そういうところで勝負するのではなくて、細かいポジショニングなど、自分が工夫することで相手を上回ることを意識してきました」

学生時代の勉強の成績は良かったそうです。勉強ができる頭の良さと、サッカーにおけるそれが同じとは思いませんが、それでも「考える」ことは得意であり、そこに楽しみを見いだせるタイプではあるようです。
高柳選手に複数ある選択肢の中からどのようにして自分がいるべきポジショニングを決めるのかを尋ねると、非常に興味深い答えが返ってきました。
「どこにポジションを取るべきかを考える時には、どうすれば味方を助けられるか、という視点に立つことが多いと思います」
「仲間を助けるポジションを取ることができれば、チームとして表現するサッカーも良くなる。それでチームが良い結果を出すことができれば、自ずと自分の評価も上がる。そういう考えなので、まずはチームのことを考えてポジションを取るようにしています」
自分が先、ではなくチーム優先。結果的にそれは自分の評価につながるという考えは、簡単なようで実は難しい。なぜなら、それは“遠回り”であり、そこには深い献身性が必要となるからです。すぐに結果として表れなくても献身的なプレーを継続する忍耐力も必要だからです。
サッカーをプレーする上で何を一番重要視しているかの質問を投げかけました。考えること、判断力、それをプレーとして表現するためのスキル。そういう答えを予測していましたが、裏切られました。
「メンタルですね。自分に自信を持ってプレーできるかどうか、という意味でのメンタルです。サッカーは結局、メンタルスポーツだと思っています」

そういう考えに至るには何らかの経緯があったはずです。大宮アルディージャのアカデミー出身の高柳選手は東洋大学在学中の2022年に大宮の特別指定選手としてJリーグデビューを果たしていますが、プロ1年目の23年のことだそうです。
「J2を戦っているシーズンでしたが、自分が先発起用されるシーズン序盤はチームとして思うように勝てませんでした。もちろん責任は感じますよね、それが自分のプレーにすごく影響したんです」
「もう練習からひどかった。考えられないようなエラーが出るんです。そういう経験は初めてでした。メンタルが崩れると技術にこんなにも影響を及ぼすのか、と思いました」
「そこから1カ月くらいはまったく試合に出られない状態が続きました。メンバー外になっていろいろと考える時間がある中で、『サッカーってメンタルスポーツだな』と実感したんですよね」
2023年5月の始めにメンバー外となった高柳選手は6月に入ると先発に復帰。そこからシーズン最後まで定位置を確保したわけですが、5月の1カ月間で、どのようにしてメンタルを整えた、つまり自信を回復したのでしょうか。
「とにかく、一つひとつのプレーを整理しました。練習の映像を見て振り返って、これはこうだったなと、整えて行った感じですね」
「そして整理したものを練習で表現することに努めました。チャレンジして成功体験を得ることで自信が持てる、自信を深めていけると思ったからです」
「もちろんミスは怖いし、ミスが出ないようなプレーをすることは簡単。でもそれが自分の成長につながるかというと、僕はそれでは成長できない、トライしないほうがミスなんじゃないか、という考えを持ちました」

今でも高柳選手は試合や練習の映像を必ず見返していると言います。
「映像だと自分のことを俯瞰で見ることができますよね。実際にプレーしているときは感覚でやっている部分もあるわけで、それを俯瞰で見て言語化、理論化できれば、自分の成長につながると思っています」
高柳選手は今季加入の新戦力ながら副キャプテンの一人としてチームをまとめる役割を担っています。増本浩平監督は「彼はまじめだから」と、副将に指名した理由を口にしています。
「真面目と言われると、何かつまんない男だとは思います。でも僕は『破天荒』からはかけ離れているので、それは仕方がないですね(笑)」
「大学の時になり行きで副キャプテンを務めた経験はありますが(笑)、それ以外にキャプテンも含めて経験はありません。今回、指名されて正直、『自分で大丈夫かな』とは思いました」
「でもプロ3年目のタイミングでそういう役割を与えてもらえることはありがたいことですから。とはいっても、自分の中の何かを変えるのではなく、自分なりのやり方でやっていければ、と思っています」
言葉でチームを引っ張っていくタイプではないと自己分析する高柳選手ですが、チームのことを第一に考えてプレーを判断し、足を動かす姿はチームメイトを牽引するのに十分な動力であるはずです。

[取材・構成:島田 徹]
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