SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第11回
若谷 拓海 選手

最下位からのジャンプに向けてチームは苦しんでいます。そんな状況の中で少し不謹慎に思われるかもしれませんが、ワクワクしながら目で追ってしまう選手がいます。今季、山梨学院大から加入したルーキー、若谷拓海選手です。

左足から繰り出すスルーパスやドリブル突破、シュート力を武器としてトップ下でのプレーで光る若谷選手はFC岐阜との開幕戦で前川大河選手に代わってJリーグデビューを果たすと、第3節のカターレ富山戦と第4節のFC今治戦で途中出場、順調なプロ生活をスタートさせました。

しかし、3⽉29⽇のトレーニング中に左⾜第五中⾜⾻⾻折、全治約10週の診断を受けて手術、戦線を離脱することに。6月24日の第15節・AC長野パルセイロ戦と第16節・アスルクラロ沼津戦でベンチ入りを果たしましたが、出場機会は訪れず。

リーグ戦復帰を果たしたのは、ケガをしてから約5カ月半後。小林伸二監督就任初戦の第26節・八戸戦で、76分に前川選手に代わってピッチに入りました。そこから9月30日の第29節・SC相模原戦まで再びメンバー外になりますが、この間に若谷選手に転機が訪れます。

就任初戦で勝利を収めた小林監督は今季初の2連勝がかかった沼津戦を0-1で落とし、次のFC大阪戦も0-0と勝利による勢いを手にできない状況の中で、チームをよりよくするための新たなチャレンジに積極的に取り組むことを決意しました。

その新たなチャレンジには、選手の特徴をより生かすためのコンバートも含まれており、若谷選手はトップ下からボランチに移ってプレーすることに。そして第29節・相模原戦の82分に永野雄大選手に代わってボランチ・デビュー。

わずか8分の出場でしたが、小林監督は若谷選手のプレーに手ごたえを感じ、「先発したら、ボランチとしてどんなプレーを見せてくれるんだろう」という強い興味とともに続く第30節・カターレ富山戦での今季初となる先発起用に踏み切ったのです。

ボランチとしてプロ初先発を果たした若谷選手はその試合後にこう振り返っています。

「守備意識を高く持って試合に入った分、前半の序盤はなかなか攻撃に関われなかったことが反省点。それから守備に関してはまずまずできたけれども、強度が足りないし、逆に強くボールに寄せた時に体の入れ方が悪くてファウルを取られた場面もあったので修正したい」

「攻撃に関してもまだまだ。まずサイドチェンジを含む、ロングパスが少なかった。特に高い位置を取る乾貴哉選手へ効果的なパスが出せていれば、という反省がある。あとはチームとしてアタッキングエリアにまでボールを運べた時にもっと積極的に顔を出して攻撃に厚みを持たせたい」

初先発までに時間がかかり、苦労もあったことで逆に浮かれた感じはなく、自らの課題を冷静に分析、受け入れているように見えました。特に、ボランチとして求められる守備力が大きな課題であるとの自覚は強いようです。

「大学まで、主にトップ下でプレーする僕は『攻撃だけをしていればいい』という扱いで、守備をほとんど求められていなかった。だから、いま、小林監督や出口コーチの映像を見ながらのアドバイスが新鮮で、また刺激的で面白い」

守備力が足りないという自覚があるから助言を素直に受け入れるのは試合中でも同じようです。

「試合中、攻撃に関しては自由にやらせてもらっていますが、守備はコウタ君(村松航太選手)の声を聞いて動いています。そのアドバイスは的確だし、間違っていないと思うから、素直に受け入れています」

指示通りに動けるのは、持ち前のサッカーセンスがあるからでもあるでしょうし、動くための走力を備えているからでもあります。

いわゆるテクニシャンは運動量が乏しいとの勝手なイメージがありますが、若谷選手は違います。小林監督はボランチ起用を決断する材料に、「動き回ることができる」ことを挙げ、また若谷選手本人も走力には自信を持っています。

「プロになるまでの各カテゴリーのチームの練習はどれもハードでした。それが当たり前になっていたので、プロになっての練習もきついとは感じないし、楽しみながらこなすことができています」

「富山戦の走行距離は約12キロ。これはチーム内でもトップでした。ただ走ればいい、その質にこだわることも必要だとは分かっていますが、富山戦フル出場、愛媛戦で89分まで出場しましたが、大きな疲れは残っていません」

課題である守備への向き合い方や姿勢は謙虚で素直なものですが、武器である攻撃に関しては譲れないモノがあるようです。それは前記の富山戦後のコメントにも表れていて、認識する課題は高いレベルであり、細かい点にまで及んでいます。例えば……。

「トップ下でプレーしていた時は、主にピンポイントで受け手に合わせるようなスルーパスを狙っていました。そこでうまく合えばビッグチャンスになる。でも相手にカットされたら一気にカウンターを浴びる。そういうリスキーなパスにどんどんチャレンジしていましたし、それが仕事でもありました」

「でも、ボランチでプレーするようになってからは、そういうリスキーなパスをしてよいかどうかの判断。それからピンポイントで合わせようとする選手、例えばオカくん(岡田優希選手)の奥にタカヤ君(乾選手)がいて、ゴールから離れるパスになるけれども、そこに出した方がより大きなチャンスに、より得点の可能性が高まるのなら、そこへ出す選択肢を持つべき。そういう考え方が必要だと思うようになりました」

ボランチは攻守のバランサーであり、ゲームをコントロールするという大きな役割があります。だから、チャレンジパスを出すことも必要ですが、ゲームの流れやその後に訪れる攻守の状況も予測しながらプレーを選択しなければいけない。そういう大きな視点を持ってプレーすることが求められるポジションでもあるということなのでしょう。

「攻撃も守備もボールに絡むところすべてに顔を出したいという気持ちがあります。練習も、試合も今は楽しくてしょうがありません」

勝たなければならない状況の中ではありますが、プレーを大いに楽しもうとしている若谷選手を見てワクワクするのはある意味、当然のことなのかもしれませんね。

まだ、ボランチとしての先発出場は2試合。その適正と評価を下すには材料不足ですが、チームのジャンプアップの力の源になりそうだとの期待を持つに十分な躍動感あるプレーを披露しているのは間違いのない事実です。今はまだ「ボランチの新星、爆誕!!」ではなく「爆誕か?」の表現にとどめておきたいと思います。

[文:島田 徹]

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