SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ
新門司キニナリーニョ 第6回
平原隆暉 選手

2022年に埼玉県の昌平高校からギラヴァンツ北九州に加入して今季で4年目となる平原隆暉選手は、今季ここまでの戦いの中で数字に残る『結果』をしっかりと残しています。その活躍ぶりの要因を探るためにキニナリーニョしてきました。
平原選手は今季初先発となった第7節のザスパクサツ群馬戦で杉山耕二選手の先制ゴールをアシストしました。左サイドで深い切り返しから相手DFをかわして左足クロス、これに杉山選手が頭で合わせました。
杉山選手はこれがJリーグ初ゴールでしたが、平原選手もまたこれがJリーグ初アシストとなったのです。

この群馬戦までのリーグ戦5試合で平原選手はメンバーに入ることができませんでした。そのころのことをこう振り返っています。
「今年はコンディションがずっと良かっただけに、メンバーに入れなかった時は結構、ショックでした。でも、そこで気分が落ちても何も良いことはないので、ずっとやり続けるしかないと思い日々のトレーニングに臨んでいました」
もちろんシーズン序盤ですから、出場機会が訪れないからといってアピールをあきらめるわけにはいきませんが、平原選手が強い気持ちでいられたのは指揮官への信頼もあったようです。
「練習から良いパフォーマンスを見せ続けていれば、マスさん(増本浩平監督)は必ず使ってくれる。それは去年から感じていたことです」
「だから、いま使われないのは自分に理由があると思いました。去年から自分が良いと思う時、そんなに良くないと思う時の感覚はマスさんのそれと一致していました」
平原選手は初アシストを記録した群馬戦の次のゲーム、第8節のFC大阪戦で連続アシストを記録します。
59分、ハーフウェイライン付近で岡野凜平選手が相手ボールを奪取、岡野選手からの短いパスを受けた平原選手は前方にボールを少し運んだ後、左を走る樺山諒乃介選手がスピードを殺すことなく受けられる絶妙のパスを通し、樺山選手の今季初ゴールをアシストしました。
ボールテクニックが高い平原選手は自らドリブルで前進することも可能ですが、この時は素早く樺山選手へのパスを選択しました。
「シンプルにプレーするだけでは、相手も対応しやすいかもしれない。そのへんは、実際の試合の中で自分の中で判断し、ドリブルでしっかり運ぶ時とのバランスを取っていきたいと考えています」
チームスポーツではありますが、自分の強み、個性を発揮することは非常に大事なことだと言われます。
しかし状況によって、例えばチームのリーグ内における立ち位置、調子、相手の警戒の仕方によっては、自分の長所発揮に固執することが必ずしも良い選択だとは限らない。
昨季までの3年という時間をかけて、優れたプレーヤーが備えているだろう、そんな機微を理解した。それが平原選手にとっての一つの成長の跡だと感じることができます。
群馬戦とFC大阪戦での2試合連続アシストの活躍ぶりは、3月20日のルヴァンカップ1stラウンド1回戦のファジアーノ岡山戦での今季初ゴールが引き金となったように思います。

坂本翔選手の右サイドからのクロスをヘディングで合わせた、そのゴールをこう振り返ります。
「岡山戦のゴールは正直、狙ったヘッドではありませんでした。頭でフリックすることで、ゴール前で何かが起これば、という感覚的なプレーです。それがたまたま入りました」
感覚的だったと言うゴールは、平原選手のメンタル面に及ぼした影響はかなり大きかったようです。
「J1チームを破ることになったあのゴールは自分の中で自信になりました。自信が生まれれば心に余裕ができる。余裕があればプレー判断の質も上がる。あのゴールでそういう良い循環が生まれたのかもしれません」
「もともと、単純なトラップミスやパスミスが多かったので、それを減らそうと練習で継続的に取り組むことで徐々にミスが少なくなってきました。それによってやはり、自信と余裕が生まれてきたように思います」
得点やアシストという結果を残すことは内なる変化だけではなく、周囲の自分に対する変化にもつながると感じているようです。
「結果を出すことによってチームメイトから、また監督やそのほかのコーチングスタッフからの信頼を得ることができる。当たり前だと思うそれをいま少し実感しています」
「信頼してもらえていると感じると、練習や試合で自分の考えを発信する勇気にもなります。もともと発信はしていた方ですが、より積極的になりましたし、みんな耳を傾けてくれるようになったとも感じています」
今年初めに平原選手に今年は何をアピールしたいかを聞いた時に「守備を自分の強みとしたい」という答えを返してくれました。
「フィジカルの強さを生かしてボールを奪うというタイプではありません。ただ、相手の動きを前もって予測して奪う、身体の入れ方を工夫して奪う、というのは、自分の中ではずっと強みだと思っていました」
「今年はそれをもっと出そうと。そういう選手の方が起用されるはずですから」

その意欲も一つの分かりやすい結果となって表れました。第12節のツエーゲン金沢戦。岡野凜平選手のアシストで河辺駿太郎選手が決めた決勝ゴールの起点は平原選手のボール奪取でした。
ボールを前に持ち出した相手選手の後方から迫った平原選手は身体をうまくボールと相手選手の間に滑りこませてボールを奪取、岡野選手へ素早くボールをつないだのです。
プロとなった初めてのシーズンから「常にスタメンで出続けなきゃ」と思い、また「厳しい競争を勝ち抜くために結果を出し続けなければいけない」と考えてきた平原選手は今の好調をこう捉えています。
「今年になって何かを変えたからではなく、これまで継続的に取り組んできた成果が、少し出始めた。僕はそう感じています」
平原選手に訪れた“4年目の春”は、しかし、まだ芽吹きの段階であり、花開くのはまだ先のことだと考えるべきだと言えそうです。
なぜなら平原選手自身が自らの伸びしろ、成長の余地がまだまだあるはずだと信じ、現状に満足していないからです。

[取材・構成:島田 徹]
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