SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第10回
坪郷来紀 選手

ギラヴァンツ北九州U-18からトップチームに昇格したのが2023年。そして24年夏の『ベルガロッソいわみ』への期限付き移籍を経てプロ3年目の今季、6月14日のJ3第16節・アスルクラロ沼津戦で途中出場ながらJリーグデビューを果たすと、その後はメンバー入りに絡むようになりました。アカデミー出身者としてチーム内外からの期待も高い坪郷選手の現在地に至る『動力』をキニナリーニョしてきました。

Jリーグ初出場はリーグ戦第16節の沼津戦でしたが、それより前のカップ戦で坪郷選手は好プレーを見せていました。

3月20日のルヴァンカップ1回戦のファジアーノ岡山戦で、決勝ゴールを挙げた平原隆暉選手に代わって86分から途中出場すると、4月16日の同カップ2回戦の横浜FC戦(1-2敗戦)で今季公式戦での初先発を果たしました。

そして6月11日の天皇杯2回戦の岡山戦で先発すると河辺駿太郎選手の先制ゴールを右サイドからのクロスでアシスト。

これが坪郷選手にとっての公式戦プロ初アシストでした。そうしたカップ戦での活躍が沼津戦でのJリーグデビューとその後のメンバー入りにつながったと言えます。

そうした今季序盤の活躍は、まずは昨季の『いわみ』での経験が大きかったと坪郷選手は言います。

「結果的にいわみの一員として戦った中国リーグの出場は5試合に終わったので、チームを助けたとは言えません。でも、個人的には自信を持つことができました」

「こういう言い方をすると偉そうに聞こえるかもしれませんが、いわみでは練習でも試合でも、『あれもできる、これもできる』という感じで、自分のイメージ通りのプレーをすることができました」

「それまでのギラヴァンツ北九州での練習でできなかったことが、できる。自分はやれるんだ。そういう前向きな気持ちを、いわみで持つことができました」

自分の能力を信じることができた坪郷選手はギラヴァンツ北九州に戻ってきてからも自信みなぎるプレーを練習から見せるようになったのです。

そして、フィジカル能力の維持、向上のための取り組みをいわみでの半年間、怠らなかったこともプラスに働いたようです。

「いわみはチームとして筋トレをする時間が設けられていませんでした。筋トレは各自が近くのジムで行う。僕はギラヴァンツ北九州のガクさん(立田岳矢フィジカルコーチ)にお願いして、毎週のように特別な筋トレメニューをつくってもらって取り組みました」

「ガクさんの協力のほかに、いわみの当時最年長35歳の田平謙選手が、ほぼ毎日朝と夜にジムにいくような鉄人で、その人に感化されたことも、怠けることなく筋トレを続けることができた理由です」

恵まれない環境の中でもフィジカルアップに努めたことで、プロに入ってからの課題だった球際の争いの強度も上がりました。

「例えば同じサイドハーフでプレーするリンペイ君(岡野凜平選手)が、そういうところを強みの一つとして出場機会を得ているし、自分もそこは高めたいと考えていました」

「マスさん(増本浩平監督)からも守備面での要求は高く、守備で頑張らないと出場機会はないと思ってトライはしてきました。ユースの時は重視していなかった守備の所で頑張るのが当たり前になりました」

つまり、守備戦術と強度の向上も今季出場機会を得る一つの要素になったと言えそうです。

今季はサイドハーフやシャドーでのプレーがメインとなる坪郷選手ですが、相手を背にしてボールを受けても簡単にはボールを失わない、そこから前を向いてドリブルで仕掛けることができるのも魅力です。

「ボールを受ける時のファーストタッチ、特にターンはプロになってから、かなり練習しました」

「それはプロ1年目にチョウさん(長島裕明コーチ。現・栃木SCヘッドコーチ)から『シュウト(町野修斗選手、現・ボルシアMG)にも最初にターンの練習をやらせたんだよ』と言われたことがきっかけ」

「もちろん、1年だけで十分なレベルにはなりませんでしたが、それからも意識して練習をすることで自信を持てるようになり、今は相手を背にしてボールを受ける時も焦ることがなくなりました」

また、ボールを受けた時に簡単に失わない、あるいはドリブルで相手を抜ける要因の一つに左足のボールタッチを挙げられます。右利きなのに、左足でうまくボールをさらして相手の逆を取るのです。

「1年目は左足でボールを扱うのは苦手でした。とは言っても、左足を使ったドリブルを練習したわけではありません」

「両足でシュートを打てるようにしたいとの思いで左足を使うようになって、左足のボールタッチにも自信が出てきました」

「最近は特に意識せずともスムーズに左足を使って相手を誘い出す、ボールを運ぶということができる。両足を使うことで、相手にボールを取られる頻度は減ったと思います」

いくつもの『自信』が自らの武器とスタイルを表現するための強力な支えになったと言えそうですが、まだ多くの部分で自信が足りないと感じているようです。

「今の課題はゴール前でのスキルです。最後のファーストタッチ、ラストパスの質。そしてシュートかパスかの判断の質が足りません」

「ボールを受ける前にシュートかパスのどちらを選択するかを決めていて、いざボールを受けた時に相手の位置や味方の状況が変わっているにもかかわらず、決めていた選択をそのまま実行してしまう」

「それをマスさんや池西さん(ゼネラルマネージャー)は『プレーが素直すぎる』との表現で指摘してくれます。相手の逆を取らないといけないスポーツなので意地悪くプレーをしないといけない時もある」

「それができないのは性格のせいかも、と考えましたが、高校の頃の映像を見返してみると、相手が嫌がるプレーはできていた」

「だから、いま、プレーが素直すぎるのは、肩に力が入っているから、余裕がないから。あるいはアシストやゴールという結果を出さなければ、という焦りからかもしれません」

リーグ戦第25節時点で坪郷選手にまだプロ初ゴールは生まれていません。

「早く欲しい。『練習でやったものしか出ない、練習で成功体験を増やしてピッチでの表現につなげていくしかない』と監督とコーチの皆さんから言われています」

初ゴールによって手にする自信が坪郷選手をどのように成長、変化させるのか、とても楽しみです。

ちなみに、天皇杯・岡山戦での初アシストには裏話があります。本人が猛省しながらそれを打ち明けてくれました。

「あの試合、何か爪痕を残そうとものすごく気合が入っていました。でもそれが良くなかったのか、スパイクを持っていくのを忘れました。プロとしてあるまじきことだと分かっていますが…」

「それで同じメーカー、同じモデルのスパイクを履いているシュン君(河辺選手)に予備のスパイクを借りました。ワンサイズ小さかったのですが、気になるほどではなかった」

「シュン君のゴールをアシストした後、僕がプロ初アシストだということを知っていたシュン君がひざまずいて僕のスパイクを磨くパフォーマンスをしてくれました。つまり、シュン君は自分のスパイクを磨いていた、ということになります(笑)」

小さいころから忘れ物が多かったと言う坪郷選手ですが、「不思議なことにいつも大事には至らない」とのことです。周りに助けてもらいながら難を乗り越える。これも坪郷選手の能力の一つなのかもしれません。

[取材・構成:島田 徹]