SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第12回
坪郷 来紀 選手

チームとして大いに苦しんだ2023シーズン。これがプロ初年度となった今季唯一の高校卒ルーキーである坪郷来紀選手が、この1年をどう過ごし、何を感じたのか。それがとても気になったので直撃してきました。

練習に励む坪郷選手の姿をシーズン通して見る中で、彼への印象は時間の経過とともに変わっていきました。特に感じた変化は、たくましさが増したことです。その印象を坪郷選手に伝えながら、いろいろな話を聞く中で、ボヤっとしていた「たくましさ」が明確なモノとして理解することができました。

坪郷選手に「この1年でできるようになったこと」を聞いた時に即座に返って来た答えは2つ。1つ目はコミュニケーションです。

「アカデミーでプレーしている時から人とコミュニケーションを取ることが苦手でしたから、今年の最初の方は委縮してしまって、ほとんど自分から話しかけることはできませんでした」

アカデミーのチームなら離れていても2歳差。ところがトップチームともなれば10歳以上離れている選手が複数いるわけですから、自分から話しかけるのが簡単でないことは理解できますよね。

坪郷選手はまず、一つ年上の伊東進之輔選手、井野文太選手、平原隆暉選手3人たちを手始めに年齢が近い選手と会話をかわすことに努めたようです。

さすがに30歳に近い選手との会話は難しかっただろうと想像しましたが、「カミさんが優しくて」と、夛田凌輔選手とともにチーム最年長となる30歳で今シーズンを迎えた上形洋介選手と会話することでコミュニケーション能力を磨き、やがていろいろな選手とも「プライベートでも話をできるようになった」と言います。

会話は自分の考えをしっかりと表現して伝えることが大事になりますが、ピッチ上での自己表現に必要な術が「この1年でできるようになったこと」の2つ目の答えで、それは「ターン」でした。

「チョウさん(長島裕明ヘッドコーチ)から『来紀の良いところは、前を向いて仕掛けられること。だったら、その前のプレーとしてのターンにフォーカスしてみたら』と言われました」

「確かに、トップチームの一員として練習に参加するようになって自分の持ち味である、仕掛けの部分ができていなかった。それはボールを受けた時にうまく前を向くことができなかったからでした」

長島ヘッドコーチのアドバイスをもらいながら地道に練習を重ねて、後方からのボールを受け、そこに相手の圧力がかかっていたとしても、スムーズに前を向いて、仕掛けのプレーにつながるようになったと言います。

「トップとサイドハーフなど、ポジションによって効果的なターンというものがあります。それぞれにターンする時の周りの見方、ボールを受ける前、受けた後の足の運びなどに違いがあります」

「まだ完ぺきではありませんが、どこのポジションでどんなターンをするべきかの理解は深まりましたし、それぞれの精度も上がって来たと思います」

フィジカル面の強化もうまくいって、ドリブルやシュートの場面でのフィジカルコンタクトで簡単には負けないようになったと言います。

また岡田優希選手のアドバイスに耳を傾けながら『左サイドからドリブルでカットインしてからの右足シュート』という、“自分の形”と言える得意なシュートパターンも手にしました。

そして今季唯一の公式戦出場となった天皇杯2回戦のファジアーノ岡山戦での10分間のプレーも自信になったようです。

「思ったよりも緊張せず、10分しかプレー時間がない中で、どうしたら次に生かせるかを考える余裕もありました。でもピッチに入って3分くらいはボールが回ってこなくて『やばいな』と思ったので、自分からボールを要求しました」

「ラストプレーで得点のチャンスがあり、それを決められなかったことを本当に悔しく思えたこと、何よりもその試合に出たことで自信がついて『早くリーグ戦に出たい』、『リーグ戦で点を取りたい』との気持ちが自分の中で大きくなったことが何よりの収穫でした」

チームが苦しい状況にあるシーズン終盤になってから「試合に出たい。自分の力で何とかしたいと思うようになった」と坪郷選手は話しましたが、それも先輩たちの姿を見ることで沸き起こった気持ちのようです。

「僕はずっとリーグ戦でのベンチ外メンバーでした。その中でいろいろな選手が練習やトレーニングマッチでアピールをしてベンチ外からメンバー入りを果たし、試合に出るのを何度も見ました」

「そういう選手は練習で決して怠らないし、いつも目がギラギラしている。それが1年中、続く。やられても、失敗をしても『上に行くんだ』という反骨心。素直にそれがすごいなと感じました」

あまり得意ではなかったコミュニケーション能力が高まってピッチ上での意思疎通も図れるようになり、また得意なプレーを発揮するための技術を磨くことで自らのストロングポイント発揮も可能になり、わずかな時間の公式戦出場も果たした。

そうしたことから手にした自信と、プロの厳しさと世界を先輩たちの姿を通して知ることで、坪郷選手の内側から外から見ても分かる「たくましさ」がにじみ出てきたんだろうと理解することができました。

来季に向けた来紀選手の一言を最後に。

「試合に出てしっかり結果を出す。ギラヴァンツ北九州のために活躍する。そうやって、チームと自分の価値を上げたいと思います」

[文:島田 徹]

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