SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第11回
星広太 選手

7月12日の第20節・栃木シティ戦で今季初先発を果たすと第29節・高知ユナイテッドSC戦まで11試合連続で先発出場、チームの勝点獲得に貢献してきた星広太選手。激しいポジション争いを制して試合出場の権利を勝ち取ってきた理由をキニナリーニョしてきました。

まず、第3節・FC岐阜戦で途中出場による初出場を果たしながら、初先発が7月になった理由を聞きました。

「今季は筋肉系や細かいケガが重なりました。ケガに強いタイプだったので、これほど長く休んだのは初めてで、復帰に向けて少し慎重になったところがありました」

ケガからの復帰に時間はかかりましたが、栃木C戦で初先発を果たしたあとは、左ウイングバック、右ウイングバック、そして3バックから4バックへ移行してからは左サイドバックとしてプレー、攻守にわたって安定したプレーを披露しています。

星選手に試合出場にもつながる自身のストロングポイントは何か、と聞きました。

「複数のポジションでプレーできるのは一つの特徴と言えるかもしれません」

今季加入してからは前記の通り、左右のウイングバックと左サイドバックでプレーしていますが、神奈川大卒業後、福島ユナイテッドFCでプロになってからプレーしたポジションは複数あります。

「やったことがないのはボランチとセンターバック。左右のサイドバックとウイングバック、それからインサイドハーフ、トップ下、2トップの一角も務めたことがあります」

横浜F・マリノスで育成年代を過ごした星選手は攻撃的なプレーで光る選手だったようです。

「若いころはアタッカーとしてゴリゴリ仕掛けて点を取るタイプでした」

「仕掛ける」と聞くと、スピードや圧倒的なドリブルテクニックを駆使してのモノだと想像しますが、そうではなかったようです。

「相手をいなしながらのプレースタイルだった。スピードではなく、相手の逆を取るような」

星選手には双子の弟がいます。J1アルビレックス新潟でプレーする雄次選手です。雄次選手とのプレースタイルの違いを聞くと。

「プレーヤーとしても似ていると言われることはよくありましたが、僕の方がよりアタッカー気質でしたね。雄次はサイドバックでのプレーが多かったですから」

アタッカー気質の星選手はかつて「個人」の表現に力を置く選手だったと言います。「ゴリゴリ仕掛ける」との言葉はそういう姿勢の表れであるのでしょう。

冒頭の質問である「ストロングポイント」について、星選手は複数のポジションをこなせるユーティリティー性を挙げましたが、それについて言葉を足しました。

「どこでもプレーできることは長所でありますが、見方によっては『一つのポジションで突出したプレーができない、』と、ネガティブに捉えられることもあります」

このあたりの考えはプロ選手としての経験を積む中で、自らのプレースタイルの変化へとつながっていったようです。

冒頭のストロングポイントについてユーティリティー性のほかに星選手がもう一つ挙げたモノがあります。

「チームのために戦い、走り、プレーできるところは最近の強みになっているように思います」

「昔はアタッカーもやっていたので自分を表現することに力を入れていましたが、最近はよりチームのことを考えてプレーするようになったと思います」

そうした意識の変化は何がきっかけとなったのでしょうか。

「レベルが上がれば『突出した武器』を持つ選手がたくさん出てくるので『自分』を出して勝負するよりは『周囲を生かすこと』で自分を表現する、勝負する、そう意識するようになったかもしれません」

ユーティリティー性についてネガティブなとらえ方があるという認識、そして他の突出した武器を持つ選手の存在によって星選手の視点が『自分を表現する』ことから『周囲を介しての自己表現』へと変わった、という自己分析です。

では、星選手は『突出した武器』を持たない選手なのでしょうか?

星選手が左ウイングバックとして先発するようになってから増本浩平監督は「データ上でもコウタがいる左サイドからの攻撃回数が明らかに増えた」と話していました。

それを指揮官は「まずコウタにはボールを失わない力があること。それから相手や味方のポジションによってボールの運び方、動かす方向を的確に変えられる力を持っていること」と続けました。

周囲と相手の出方を見てプレーを判断する。その判断の質は『駆け引き』の質でもあります。

アタッカー気質だった若いころの星選手は自分を表現することに意識を置いていましたが、その表現は「スピードではなく、相手の逆を取る」ことだったと回想しています。

つまり昔から『駆け引き』の能力に長けていたということになります。そうした相手の逆を取る術は、見て学んだと星選手は言います。

「マリノスのアカデミーの指導者だった松橋力蔵さん(現・FC東京監督)は、一緒に練習をしていても圧倒的にうまくて、ボール回しではユースの僕らが遊ばれるくらいのスキルを持っていました」

「僕らはそれを見て学びました。『こうやって逆を取るんだな』と。僕は何らかの具体的なアドバイスをもらってそれを忠実にやろうとするのではなく、どちらかというと、言われなくても盗む。そんなタイプでした」

「人のプレーを見て練習や試合で何度も試しながら自分のモノにしていく。周りにうまい人がいたし、双子の雄次もいて負けたくなかったし、そういう向上心はありました。」

星選手に『相手の逆を取る駆け引き』を子供たちに教えるとしたらどうするかと聞くと「うーん、そこの言葉はまだ見つけていません」と答えました。

『駆け引き』のうまさは、ボールテクニックやフィジカル能力のように、トレーニングを積めばある程度のレベルにまで向上できる能力ではありません。しかし一方で、サッカーをプレーする上でこれほど重要な能力もありません。

つまり、星選手は『突出した武器を持つ選手』だと言えるのです。今季も残りわずか、星選手の手に入れようとしてもなかなかできない稀なる武器に目をこらしてみてください。

[取材・構成:島田 徹]